『そこに落ちてる真刀で、今すぐ私を斬ればいい…』
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『ねぇ』

「あ?なんだ……」








完全にこちらを向く前に
土方に放ったものは、竹刀


そして彼が、宙に浮くソレを掴み取った








「……ッてめっ…!!?」







途端、私は地面を蹴っていた。

























『……ッ!!』

「…クッ……」
 







以前、刀を交えたときよりも
土方の反応が悪いのは

咄嗟に出た手が、左手だったからだろう



…突然の攻撃に順応に対応した
その身体に染み付いた“戦闘反応”…


不利な状況の中で
それでも土方は、見事にその一撃を竹刀で受け止めた








「……な、ンだてめっ……!!!いきなり襲いかかってきやがって…!」

『!!!──…』

「武士ならなァ、正々堂々と、正面からきやがれっ…」












土方からの攻撃は
架生にとって、重い一撃だ


木を通じて

男と女の力の差を、感じて思い知る─…















『…舐められたもんね、』

「…───!!!」

『大口叩いている暇!??……』

「クッ……てめ、…」









勝負というより、

架生が一方的に、技を撃ち込んでいく
そしてそれを、土方が竹刀で受け止める


それの繰り返し…









そうなれば、必然的にも

圧されているのは土方……、
















「…ナメてんのは、てめぇだ」

『な……、に』





の、はずだった───。












撃ち込まれた一撃に、土方の竹刀が揺れ

架生の竹刀をまともに受けた
かに思われたが、






『…─────!!?』









架生の攻撃を交わし、

すぐに体制を整えた土方は



手に持つ竹刀を持ち直して
足を踏み込んだ──…



















『……────、』







そこまでは、ほんの一瞬だった。








土方の思ってもない反撃に
対応しきれなかったのは架生のほうだった







『………チッ、』







気づいた時には、両手は地面についていて

お尻からは
ひんやりとしたソレが布越しに伝わってきた




…そして、遠くの方で

木片が地面に叩きつけられたらような音が
ようやく、耳に届いた。










「……」








上を向けば、
冷たく冷え切った目をした男が

自分を見下ろしている。



静かに、己の“刀”を
架生の首筋に置いた














「………近藤さんには、とやかく言われそうだが生憎俺は、あの人ほどお人好しじゃねぇ…。真撰組の…あの人の邪魔する気ならガキだろうが女だろうが、平気で殺してやる」








ぴたり、と
己の首に、峰が宛がわれた


これが真剣なら、すでに死んでるなと
どこかで嘲笑う

冷めた自分がいた









「…どういう経緯で、ここにきた」








低い、掠れた声








『…アンタに答える義理はない』

「…」








気にくわなかった男は
自らが見下ろしている女の、着物を掴み

肩を地面に叩きつけ押して
組み敷いた。




















「…オイ、あんまナメた口利いてると、テメェのその強情なプライドがズタズタになるまで、犯すぞ」







架生の胸倉を掴み、間近に引き寄せ

怒りや焦り、
苛立ちを含む──だが、どこか悲痛にも聞こえる──声で告げた













倒され、組み敷かれたまま
架生は土方を真っ直ぐに見る








『…そこの刀、』

「……、」







無意識のうちに、
肩を押さえた手に力が入る







『アンタの言うとおり、私が近藤さんの邪魔になる人間なら、そこに落ちてる刀で、今すぐ私を斬ればいい…』

「………」









戦闘場と化した、この庭の端に目をやれば
こうなる前に女が手にしていた“刀”が横たわっている


土方の目が、鋭く細められた








『もともと、あの人に拾われなければ、とうの昔に消えてた命よ』

「………」














『アンタの意思、…好きにすればいい』
















(…この女、)








『…始末書、始末してきますんで』


“どけよ、”







肩に置かれたままの手首を掴み

まだ、力を込められたままにも関わらず
いとも簡単に振り払う架生










(…何モンだ、)

(あいつ、)
















『…近藤さん』

「…おぉ、架生ちゃんっ」

『……どうかしました』







部屋へと向かえば、

腕を組み自分の部屋の前を
行ったり来たりしている、近藤の姿を見つけた。








「お、オレか!!?…い、いやぁ、あの架生ちゃん?……、と、トトトシ知らないか!??」

『知りません』

「……ぅえ、ええぇっ!??」

『見てたんですね』







部屋の前の縁側に腰をおろした。








「だ、だだって…ゴリさん心配っしたんすよ!!?犯すとか斬るとか!!嫁入り前の娘を持った親父気分で」

『……』

「すまないな、架生ちゃん」







そう呟くと、架生の隣にしゃがみ込んで
彼女の、頬に触れた

気づかないうちに、身体は小さな傷だらけだ



  





「俺が、架生ちゃんを邪魔だと思う時はないさ。トシにも、君を斬らせたりはしない。…まぁ、架生ちゃんが、ここを気に入らないときは、仕舞いだがな」

『気に入りますよ』











弟子に慕われて…
他人の安否をすぐに願う









『似てるから、ここの人達…前の、私の居場所に』










だから、最悪な奴がいるにも関わらず


ここが

居心地がよくて
堪らなくなりそうで…









『…先生、』








また、


手放すことに

臆病になるかもしれない。









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