少女の事情











八木邸然り新選組の屯所。
そこの一室の広間に、新選組の幹部数名と
そして彼らに囲まれるように座る少女がいた。

重苦しい空気の中で 新選組副長、土方が
少女に出した処分はこうだった。





「……綱道さんが見つかるまでの間、 お前を新選組預かり者とする。」








その言葉に、少女だけでなくその場にいた幹部たちの表情も
心なしか和らいだように見受けられた。






「部屋を一室くれてやる。俺の許可無く出ようなんて考えは、今のうちに捨てておけ、篭もってろ。」

「…はい、」





“見張りをつける”と付け足した土方の言葉にまた少し、少女の顔が強張る。

我らが新選組局長近藤、他もまたそれに気づいていたが
口出しはせずに、どこか複雑な面もちのまま、言葉を飲み込んだ。





「………誰でもかまねぇから、 誰かこいつを部屋に連れて行ってやれ」





土方なりの配慮に広間に残ったのは
山南、近藤、土方だけだった。









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少女は、幹部たちの後ろを 小さくついて歩いていた。






「よかったなお前」

「殺されずに済んでね。ま、怪しい動 きをみせたら、すぐに僕が斬っちゃうけど」

「総司お前なぁ…、言動すべてが物騒 なんだよ」





あはは、と茶色の髪の彼は乾いた笑みをこぼし た。

…そんな彼等に千鶴はおずおずと尋ねた。






「……あの、」

「んぁ?何か言ったか」

「そういやお前、名は何つったっけな」

「あ…………、雪村千鶴、です」

「おー千鶴な、……で?なんだ?」






原田左之助が、自分の赤毛を人差し指で軽く掻いた。

そして、おろおろ様子を窺っていた千 鶴を促す。






「あの、私が……部屋を一室いただいてもよろしいのかなって…」

「君、そんなこと考えてる場合?」

「え?」





沖田総司が、動かす足を止めた。
くるっと振り返り俯き加減の千鶴の顔を見下ろす。





「余計な気遣いは無用。君は自分の心配だけしときなよ。」

「え…」






ショックを受けたような顔を浮かべた千鶴をみて
沖田は小さくため息を漏らす。





「いっとくけど…僕らは君を信じた訳じゃない。」

「おい総司……ちょと言いすぎじゃねぇのか」

「何左之さん。僕は本当のことを言ったまでだよ」





最初のところは、不憫な千鶴に助け舟 を出そうとした原田だったが
沖田の言葉に 苦虫を潰したような顔を浮かべた。


一言一言に、肩を竦める千鶴を
沖田は一瞥。

すたすたと歩き始めた。








「あの人は一体、何を考えているんだか」

「土方さんだって、何の考えもなしに決めたことじゃねぇだろうよ」

「…………どうだかね。」

「……つかよ。お前が苛ついてる理由は、それじゃねぇんだろ?」

「……あの子は、いるよ。」

「は……?」

「…って。その理由は、左之さんだって同じなくせに。自分だけ大人ぶるのは卑怯だ。」







原田は、先々進む沖田を止めるなんてことはしなかった。

自分も、沖田の言葉に
すこし考えることがあったからだ。








「はぁ……ったく、アイツは」





前を行く沖田と、隣でシュンとする千鶴を
原田は交互に眺め 今度はガシガシと頭を掻いた。









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