『終わったぁー』






そう呟いたのと同時に "ヤバい" と、すぐに自分の口に手を当てる。


周りを見渡した。
けど、誰一人として自分をみた様子はない。
いつも通りの閑散としたオフィスに変わりなかった。


深く呼吸をしてもう一度、伸びをしたとき

ふと、視界の端っこに
近藤さんがお妙ちゃんをデートに誘う姿があった。







さすが近藤さんだなぁ。

…まだメゲてないよ。




近藤さんとは、この部署のチーフをやってる
一言で言い表せば、お人よしのゴリラ。


そんな彼の趣味は 私の先輩にあたるお妙ちゃんを
ストーキングすることだと、私は勝手に思っている。




お妙ちゃんは、私の先輩。
気が利いて、頼もしい。
隣にいると、お姉さんといるようなそんな存在。

そんな彼女がこの商社に入社したのは、私がくる 2年前のこと。

そのころから、もう近藤さんに捕まってしまったとかなんとか。


この部署に配属されたことが
自分の人生においての、最大の失敗だ、と

この前、お酒の席で嘆いていた。



近藤さんのストレートさ……
しつこさにはいい加減、げんなりしているみたい。

…この前も、一緒にスキューバダイビングにいこうと
水着をプレゼントされちゃったみたい。




"すぐにラリアットかまして逃げてきちゃった"、って
大学の後輩で、お妙ちゃんの弟の新八くんが教えてくれたの。



でも、近藤さんのその空回りっぷりが可愛いと思うのは
私だけかな。





ガチャ…とオフィスの扉の開かれた音に
そちらへ視線をずらすと

いま大人気の、某有名ケーキ店の袋とタバスコとわさびが大量に詰め込まれた
紙袋を両手に提げた総悟がいた。

沖田総悟は、私の大学の同期であると同時に会社の同僚。
総悟は内面とは裏腹に、外見はものすごくよくて、とにかくモテる。
そのケーキの袋も、きっとどこかの秘書課とかのお姉様方たちからいただいたんでしょ。


タバスコはミツバちゃんが贈ってくれたんだろうけれど
あの大量のわさびは一体……


私は総悟を見つめ、 ハーレムとしか言いようのない彼の大学時代を思い出していたの。



すると、不意に視線を動かした総悟と
ばっちり目があってしまった。

口の端っこを、クイッとあげた総悟は
そのまま自分のデスクに戻っていった。





『………』








どうして笑われてしまったのか分からずじまいで。

フリーズしていた体ごと、総悟のデスクに向けると



するとケーキとわさびを手に、それと私を交互に見る総悟の姿が目に飛び込んで。





……私に、盛るつもりだな。




向こうにバレない程度で総悟を睨んでいたとき
後ろのデスクから、苦しそうな銀ちゃんのくぐもった声が聞こえて
真後ろにある銀ちゃんのデスクには
本体の銀ちゃんがいちご牛乳片手に突っ伏して寝ていて。

魘されているのか
何かの拍子にぎゅっ、と力の込められた手によって
いちご牛乳が、A4の用紙の上にジョロジョロこぼれ落ちちゃった。



たしか、その用紙…
朝、将ちゃん直々に頼まれてた

今日に提出しなきゃいけない資料じゃないコレ?








…銀ちゃん

今日、飲みに行けないね。



すやすや、と眠る銀ちゃんに
私は心の中でエールを送った。







そのころ

…怒りのボルテージは最高潮に達したお妙ちゃんは
ついに
近藤さんの顔面にストレートを決めた。

















樹元花純 24歳。
社会人2年目。

今日も、こんな感じで

観察してます。


















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