「薄桜高校、一本」

「勝者、沖田総司!」

「勝者、斎藤一!」







───

───






『おめでとう!二人とも、凄かったよ』

「君、ここでそれ言っちゃうんだ。いい度胸だね美悠ちゃん…」

『えー、や、でも本当凄い試合だったよ?』



今日は、薄桜高校剣道部 夏のインターハイ。
まさか、総司と一君の決勝が 見られるなんて!



「ていうか……いくら同じ高校だからって、決勝でた二人を同じ控え室に割り当てるって、どうかしてるよね」

『…たしかに』

「あーあ。あと三分くらいあれば、一君捻り潰して、僕が勝って優勝の予定だったのにな」

『予定、でしょ?でも、いいじゃない。』

「良くないよ。」



どうしても、勝ちたかったみたい そんなにこのインターハイにこだわる理由は何なのかな。



「だって。この試合、一君に勝てたら、美悠ちゃんに剣道部の マネージャーしてもらう予定だったしさ」

『!』

「何っ!」

「えっ、……美悠そんな約束してたのか!?」

『えっ、やっ…し、してないっ!』

「おい総司、何やってんだよ!そこは勝つところだろ」

「あはは」



いきなり控え室に入ってきたかと思えば 平助よ、毎回総司の言葉に賛同するでない。



「……美悠が…マネージャー…………」

『ねぇ、一君からもちょっと何とか言って?』



隣で長椅子に座る一君に 話しかけた私だったけど、何かを呟き続けている一君は 私のほうを見ようともしない。



「一君!なに勝っちゃってくれてんだよ……!」

「な、なんだと………!」

『ちょ、平助!言っちゃってくれてんのはアンタでしょ』

「だって、一君が勝ったから美悠マネージャーやってくんねぇんだろ」

『……千鶴がいんじゃん、中等部だけど』

「お、俺は………勝ってはならなかった人間のようだ………」

『は、一君?』

「すまない平助。俺が勝ってしまったばかりに……」

「おお。さすが一君、物わかりがいい……!」



物わかりがいい、って誰と比べてんだ。

ってかまずここ根本的に、何かが間違ってるから。



「なに美悠ちゃん。僕に無断で、こんなに好かれちゃって。…… なにしてくれてるの?」

『えっ…え!!可笑しくない?何か』

「つべこべ言わずに。早く、言いナよ。僕のマネージャーになるって」

『やーよ。…しかも総司の専属マネージャーなんて』

「えー、早く逝って楽になりなよ、美悠ちゃんの分際で、渋るなんて生意気だよ?」

『は?私の分際なに?……てか、何か途中ニュアンスおかしく なかった?変換ミスってなった?』

「そうかもね。でもいいじゃない。君、どーせ帰宅でしょ」

『バスケ』





ひとりで体育館の床にボールを打ちつけたときの音とか
試合直前での、チームメイトとのかけ声とか



全部、好き







『元、バスケ部』

「うん、知ってた。」

『え…』

「有名だよ。僕らと同じ年の子で、すっごいバスケ好きの女の子がいるって」

「しかも、腕も申し分ないとな」

『………』

「けどその子、急に辞めちゃったって」





その言葉に私の顔から、笑みが消えた。







『………』

「……どうしたの?」



黙り込んだ私に 総司が長椅子から降りて、
私の前に膝をついた。



『……』

「どうして、そんなに大好きなバスケを辞めちゃったの?」

「総司、」

「…よほどの事じゃないと、辞めたりしないよね?君が」




そうだ、ね

そうだ。

バスケ部の先輩も こう思ってたのかな
私がどうして
急にバスケを辞めたのか




『内緒、』

「ふーん。……千鶴ちゃん、知ってるの?」

『……あー、知らないねぇ……』





言葉にするには
昔の自分を労るだけの余裕が
まだ足りない。











「ふーん。」






総司は立ち上がり




「…口止め料だ。美悠は今日から、剣道部のマネージャー、いいね?」




そう、言った。








バスケの籍を まだ入れたままにしているのは
なにかに夢中にならないと

いつダメになっても おかしくない気がしたから。

まだ、バスケをしていた自分に
縋っていたかったから。










『ん。…悪くない条件だね』










いまの私には

…何でもいい

ただ


しがみついていられるものが
必要だったの。









 

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