「美悠、交代だって」
ロクに店番もせずにどこほっつき歩いていたと、罵りたい気分だ…。
いきなり現れた総司は、私の頭からメイド服のカチュームを奪っていった。
『いきなり取らないでよ』
「真面目に働きすぎ。僕は美悠と色々回る予定だったのにさ」
“殆どもう、時間ないよ”と。
悪態つく総司をジト目で見据えた。
『お店に出てたら、私と嫌というほど一緒の時間を過ごせたけど?』
皮肉を言って、総司の手から奪い返した。
「あはは、ならそうしてたほうが良かったかな。お陰で一君と回る羽目になっちゃったし」
『それ、一君の台詞でしょ。店にいた一君を無理やり連れ回したのは総司の方だったりして』
「…君、ほんと一君の肩持つよね。たまには僕の気持ちも汲んでほしいな」
『はいはい』
千姫にメイド服を返せば、もう一度着させられ何故か一枚
写真を撮らせてくれとせがまれた。
やはり総司は、後ろで口元を隠し笑いを堪えている。
…
『…で。どんな気持ちを汲んでほしいわけ?そーじくんは、』
「あ、なんだ汲んでくれるの?」
教室を後にして
二人して賑わう廊下を歩く。
“んー、そうだなぁ”
顎に手を添えて考える素振りを見せる総司。
そんなようすに、またいつもの気紛れなのだと勝手に悟る。
「今日の校祭は実質もうお仕舞いだ。」
『…うん、』
「でも、明日の夜には一大イベント」
『あぁ、後夜祭…』
「うん。殆どの生徒会が明日の今頃には、もうキャンプファイヤーの準備にとりかかって頃だろうね」
総司が足を止めて窓の外を見下ろす。
グランドには、明日のための木材が綺麗に積まれていた。
生徒会…
そっか、キャンプファイヤーは生徒会が主催の…
総司の隣へと移動する。
そして窓の外の下を見下ろした。
『………』
明日はここで、風間千景と千鶴は
二人して準備にとりかかるのかな。
…──風間千景がフォークを踊る柄じゃないのは分かるけど──…
そしてそのまま、後夜祭が終わるまで二人して夜を共にするのかな。
その日、千鶴は風間千景に…──
「フォーク、一緒に踊ってよ 美悠」
『…え?』
…───一体、何を伝えるのかな。
「…嫌なら別に『いや、とかじゃないけど…』
なんて、いわないけど」
『………。』
総司は私に権限なんてものは与えない。
そんなことは知ってる…
「踊ってよ。明日の今頃の美悠の時間、僕に頂戴」
『………』
…明日は、私は診察日だと風間千景に言った。
もしそれをアイツに言ってないとして
その後に千鶴と会ったなら…
風間千景が私と──…
「どう?僕は一君より美悠と見たいよ」
共にする夜は訪れていただろうか…──。
『…て、ど、どうせ体の良いいつのも思いつきなんじゃ…────』
“ないっ……”
そんなとき、対向から歩いている人と肩がぶつかり姿勢を崩す…。
だが、すぐに隣のゴツゴツとした総司の腕が
私の肩と背中に添えられた。
『…──』
「…大丈夫?美悠」
『ぇ、……』
転けるなんてことはなく、ちゃんと私の体は総司に支えられた。
振り向けば、お互いの顔との距離はもう殆ど無くなった。
「僕に口答えなんてするからだよ。ちゃんと前向いて歩きな」
『ぅん……、ありがと』
「うん」
適当そうに見えて、周りにちゃんと目がいく総司
どう接したらいいのか、時々分からなくなる時がある。
「…───さっきの、本当だから。」
『え?』
「考えておいて」
……。
そんな顔で、振り替えられたら
私は…
彼とあなたを、天秤にかけてはしまわないだろうか。
連れだしたくせに
総司は私を廊下に残して
どこかへと消えた。