あ、風間千景だ。




『……ちづ、』

「…………」




隣にいる千鶴は
肩に力が入りきってしまっている。

もう、その人しか



「…なぁんだ」

『…………』

「……風間さん、新しい彼女、できたのか」



もう、その二人しか
見えていない。



『千鶴、行こう。』



千鶴の手を引いて
風間千景の隣を通り過ぎる。



「放課後だ。放課後、屋上へ来い」

『……………』



校舎、体育館へ続く廊下

それが、過ぎ際
彼にいわれた言葉だった


威圧的なその声は

警告のように、頭の中でなんども響いてそして

私を
怯えさせた。




──

──





「…お前、バスケをするなどという馬鹿な真似、やめるんだな」

『……………へ?』




屋上へ、行けば
唐突にも投げかけられたのはそんな言葉



『……、へ……?』

「そんなことで体をダメにしては、愚かだといっている」

『………』




こいつ

私のこと、心配してるの?




それとも
何?

“あたしの主治医”である
あんたの父親のため



『なんで、あんたにそんなこと、指図されなきゃならないの…』

「……」

『あたしは、したいことをしてるだけ…!これからもそう…』

「ふっ、………己の欲のためだけに、己の先の人生を棒にふるのかお前は」

『何が悪いの…』

「悪いなどとはいっていない。愚かだと思っただけのこと。……お前も愚かだとは思わんのか」

『……思わないね』



少なくとも
いままでバスケをしてきて

後悔したなんておもったことは

一度だってない。
私は、バスケをしてる“あたし”が好きなの



「ボールを追いかけて、何になる。それなら、薬を飲み続けることが、いまのお前に必要なものだ。ボールは必要でない。」

『…………』

「……お前を見ていると、未練がましいのが伝わってくる」

『…………』

「己の体を気遣ってやることもできぬとは、選手としても、人としても、無様だ。」

『……………』

「ふっ、……続く言葉もないか」

『…ちがっ、………』

「……呆れたものだな。」




また、風間千景は
私をみて笑う

いや、


笑ったんじゃない

嘲笑ったんだ。







『……待ちなさいよ』



屋上のドアノブをつかむ風間は
口の端を上げて私を振り返る




『何にも知らないくせに、勝手なこと言ってんじゃないわよ…!』



あぁ、ムカつく

あぁ、吐き出したい



病院も薬も
母親も主治医もこいつも

私の事情なんて、お構いなし。




『あんたが言うバスケって何!?』

『ひとりでシュートして、ひとりでドリブルして、ひとりでボール追っかけてっ…』

『あたしが昨日やってたそれがバスケ?』

『そんなの、バスケじゃないっ』

『みんなでボール追っかけて、パスして、繋げて……』

『失敗しても、続けるの……、失敗して零れたボールを拾ってくれる人がいるから…っ!』



だからまた
何度だって始められる

だけど、私の体が必要なの

それだけは
揺るぎない事実。







「……あぁ、知らぬな。お前の事情など」

「そんなものに一々情けをかけてしまえば、日本の医者などすでに足りぬ」



風間千景は
私を一度みて、扉を開けた。




差し伸べる手は偽り、真は
突き放すあなたの手






「……お前、ここに来たときより、」

「やけに顔つきが良い。」



一つ、笑みを残して。




『…当たり前だ、ばーかっ!』







これから、どんどん

風間千景に
吐き出してやるんだから。







 

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