靴箱に続く階段を下りればすぐに千鶴が 気づいて笑みを浮かべてくれた。
「美悠ちゃん、お疲れ様」
『ん。任務完了完了』
「いまから、部活だよね?」
千鶴が私に、レモン水を手渡してくれて すぐさま魔法瓶に口をつけた。
飲みながら“うん”と 私は首を縦に振った。
午前中は、顧問の原田先生のパシり。
でも原田先生、剣道部と女子バスケの掛け持ちで結局すぐに剣道部の方いっちゃったから、殆ど私がしてたけど…。
『午後からね。二時から吉原女子高と試合なの』
「そっか……頑張ってね!時期エースだもんね!」
『じ、時期エース?!』
と、言ってみるものの 実際、この夏の大会は三回戦敗退
三年生が引退して、中心は二年生なってくるのは事実。
…でも私、一年生だけどね。
苦笑いのまま、千鶴にがんばるよと、言ってみた。
『千鶴も、もうすぐで高等部にくるんだね』
「もうすぐって、まだ半年もあるよ?エスカレーター式っていっても、一応試験はあるし…」
千鶴は薄桜高校の中等部
来年試験に受かれば、晴れて高等部の生徒になる。
『大丈夫だよ千鶴なら。…あ、レモンありがと』
千鶴も午前中はマネージャーの仕事があったみたい。
剣道部の人たちに作ったレモン水を こうやって、わざわざ私の分まで用意してくれるんだ、千鶴は。
「ううん!………でも何か、ついでみたいになっちゃってごめん ね…」
こんな千鶴が好きだ。
気遣い上手で 人当たりも良くて
おっとりしてるから
たまに誤解されちゃうこともあるけど
でも、ちゃんと自分を持ってるところとか。
千鶴といると
一緒にいる自分のことも好きになれる、
そんな気がしてくるんだ。
──
─
──
『少し話し込んじゃった……………きゃっ!??』
誰かにぶつかった。
でも、その誰かが倒れそうな私の腕を掴んだから
魔法瓶が転がる音が聞こえてきただけ。 私の体を包む、その人の鼓動が耳に響くだけ。
『ごめんなさいっ…』
長い間、そのままの状況だったことに恥ずかしくなって、その人の腕の中から体を放す。
真っ赤になった顔を その人に向ける。
「…この俺にぶつかるとは………」
『…………』
「……………お前、バスケは…」
『……離してっ………!』
転がった魔法瓶を手にとり
返事をしないまま体育館へと走った。
理由を見つけては
目を背け
その後ろにある逃げ場を探すだけ。
そのときにちゃんと顔をみておいて
それからちゃんとお礼を言って
宛になんてならない
噂ばかりに耳を傾けずにいれば
いまになって
あのコの傍に彼がいるなんてこと
起こらなかったかも知れないのに