「検査までまだ少し時間があるから、美悠」



通院してから ずいぶん経った。
検査決算上、良くなってきてはいるはずなのに

そんな気は全然してこない。





「……また、おまか」

『……何、』



変わらないのは この人も、同じ。



「…どうだったのだ?」

『だから、何が…』

「検査があるから、ここにきたのではないのかお前は」

『………あ、はい』

「俺が聞いてやっているだけでも、光栄だと思うがいい」



そう、悪態をつきながらも
隣のベンチに腰を下ろすこの人は、何を考えているのか。

私の検査後会う度、こうやって結果を聞いてくるのは
彼なりに、私のことを心配してくれていると思ってもいいのかな。


…ま、ただの偶然だよね。



『……異常、無いって…』

「…そうか」



……それだけ。

私も、自分の病気について
よく知らないから 聞かれても答えられることは限られてるんだけどね。

…それでも
あまり深くは聞いてこないこの彼の距離感は

どこか
総司を連想させて
私を、ホッとさせていた。



『………』

「………」

『………花、植えかえたんだ。』



最近になって、知ったのは。

ここの病院の例の中庭は
ここの病院の院長先生の息子が手入れをしていたということ。



「……あぁ。こうも来る度、愛想もない奴に見つめられては、花も美しく咲くまい。場所を変えてやった。」

『……愛想、無くて悪かったわね』



でも この人とのこの時間は
嫌いじゃない。



『うちさー、夫婦仲が最悪なの』

「…いきなり、なんの話だ」



本当、何の話ししてんだろ。
風間千景にこんな話しても

この人は、たいして聞いてはくれないでしょう?

どちらにしろ風間千景は
私のことを可哀想な人だと、思ってるんだ



『だからねー、よく家を空けちゃってたから。』

『母親が、……寂しかったんだよね、結局。』



もともと私の父親は寡黙な人で
表現に乏しい人で。
だから、神経質になってるんだ。



『……仕方ないよね。うん、…………でも、さ』



人の不安って感じやすい分
伝わりやすくもある。



『私のこと、なんだと思ってるの?…………死んじゃうとでも、思ってる……?』

『母親が………、あんなだからっ…』



泣きたいのは私の方なのに
隣で泣き出す母親に苛々してる私。



『…私だって、…怖いっ…こわくなる……』



私の体に抱きついてきて
バスケ、始めなきゃよかったね、なんて言い出した母親への
軽蔑の気持ちがこみ上げて仕方がない。



『…だから、言ってやったんだ。』

「…………」

『バスケで、動けなくなっても…後悔なんてしないって』



その間、風間千景は
私の話に、口を挟むことはなかった。










『あ、文化祭……キャンプファイヤーするんだってね』



そろそろ、検査の時間というころ
私はベンチから、立ち上がってこう言った。


覚えていないのか……
風間千景は少し怪訝そうに眉を潜めた。



「……何の話だ。………あぁ、天霧がそのようなことを言っていたな。」

『………』



何ソレ。
あんた、生徒会長でしょう。

それくらい、ちゃんと…
千鶴と一緒に 行くんでしょ?



『千鶴……雪村千鶴と……一緒に過ごすみたいね』

「………雪村…千鶴?」

『……前に、隣に連れて歩いていた女の子よ…』

「……あぁ、あの南雲のか。」



南雲…

確か、千鶴の双子のお兄さんだったかな。
見たことないけど。



『…楽しみにしてたから。あの子』

「俺にそのようなこと言ったところで、気紛れに交わした約束。………大体、そ んな先のこと、奴もきっと忘れていよう。」

『…………』



思いっきり、風間千景を睨みつけた私



「…何だ」

『…いい。もう知らない、あんたみたいな女の敵』



今度こそ時間がやばい
最後に睨みつけ、私は再度立ち上がる。



「…おい待て。人のことを散々睨みつけておいて逃げる気か」

『別に、逃げてなんか……』

「お前は……行くのか?…」

『………』

「後夜祭」



どうして そんなこと聞くの



『………ううん。行かない』

「………」

『…その日も、検査、だから。』

「………」

『じゃね。』




また、そんな顔する

可哀想だって、 顔が言ってるよ?




絶対後悔しない
言い切れるような選択を
求めるオトナ。




「待て」

『……あんたの父親に怒られるんだけど』



おいおい会長様、さすがの美悠ちゃんも 怒るぞ?




「母親は、ただ、お前を失うのが、怖いんだ」

『……』

「自分を保つことに、精一杯なのだろう……美悠、お前の母親は」




……何言ってんの。

らしくないこと、言わないでよ。




『……明日、検査結果でるの』

「奇遇だな。俺も明日新しい花が届く、そろそろ植え替えがいるからな」

『ふーん………、気が向いたら、来てあげる。』



  
振り返らずに わたしは、病院内に入っていった。








『……名前、呼んだ…』









 

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