「…じゃあ、前の薬に加えて今日からは、こっちの三種類も、飲み始めてね」

『…………』




この看護士も
見慣れた

この薬の袋も
見飽きた



『……あの、…』

「なに美悠ちゃん、何か聞きたいこと?」



この代わりばえのない

むしろ 悪化しつつあるこの毎日に








『…何でもないです』




疲れた。






















──





「じゃあお母さん、お父さん空港まで送ってくるから」

『………』

「…検査、頑張ってね」



もう、私専用になってしまった
検査着





『うん、…頑張るよ』



所々の解れは
私が作ったもので


新しくできた解れを見るたびに
母親は

悲しそうな顔をする。








『…─あ』



「お母さん……、注射やだよぅ、入院やだよぅ」

「痛くないし怖くないよ。」

「入院したら僕ひとりだもん」

「大丈夫、お母さん一緒に泊まってあげるから」

「ほんと!?ほんとにほんと!?」

「うん、ほんと。ほら、ここ風が気持ちいねー」

「ねー」



私のお気に入りだった、病棟の裏は
新しいお客様ができてしまった。









『………あ』

「…またお前か」



“いつも”のベンチへ行けば
やはり彼はそこにいた。



『…仕方ないでしょ、私…ここの住人だもの』

「ふっ……」



何がおもしろいのか
風間千景は、鼻で笑う

私は、そんな彼を不快に感じながらも
その隣に座る。



「……何故、そこ座る」

『無理言わないでよ』



私はチラリと
自分たちが座るものとはまた別のベンチへと視線を送る。



『あんた、私をあんな、鳩まみれのベンチに座らすつもり?』



そこはまさしく鳩のオアシス

知らない叔父様が
彼らにポン菓子をあげていた。



「ふっ、仲間が大勢いる上に食べ物もある。食い意地の張っているであろうお前には、充分すぎるVIP席だろう」

『…………これでもしも私に鳥アレルギーが発症したら、一生鶏肉食べれなくしてやるんだから』

「お前にそのような巧妙なことができるとは思わん」

『鳥みたいな頭して、よく言うわ』

「何バカなことをぬかす。俺をあの様な羽毛と一緒にするな」

『羽毛布団舐めたら罰あたりだよ。すごいモフモフだしっ…』



毎回、ここにくる度
風間千景とは

こんなやりとりばかりだ



『……あ、そろそろ検査だ』

「…………」



立ち上がる私は、横からの鋭い視線を感じ取る。

でも、敵意なんてない
彼のその視線は

すこし私を、勇気づけた。












千鶴。


あの日

千鶴の写メを見なくても、
話を聞かなくても

ちゃんと、


風間千景の良いところは
分かってるつもりだよ。

それでも…




はじめから深入りなんてしなければいい
そうすれば
流す涙の苦さも知らずに生きていける。







 

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