『……』

「おはよ、美悠」



総司の手にもつ紅茶華伝が目に入る。
それを私に手渡してくれた総司は、私の前の席にすわった。



『…冷たい』

「眠気、吹っ飛ぶでしょ」

『…んー』



額に缶をあてる。
ひんやりとした冷気に、水滴に

だんだんと
寝ぼけがぬけていく。







「ねぇ美悠」

『…ん、総司、なぁに』



すぐ目の前にいる総司の声が
どこか遠くから聞こえてくる。

耳から届くその声すらも、頭に響いて仕方がない。



「…美悠」

『………、ん、わかった』

「……………」


あぁ、頭が回らない。

さっき飲んだ薬のせいだ
きっと。



「…………美悠、」


『…………ん』

「次の授業、土方先生だよ。美悠あたる日」

『……………』



……土方先生の授業

古典かぁ…







……えっ





『えっ………!!!』



飛び起きた。けど
目の前には

土方先生どころか、他の生徒もいない。



『……あ、あぁそっか』



もう、今日は放課後だった。


隣には、いすを此方にむけて
にっこりと笑う総司がいるだけ。



「僕の話しを、聞き流した罰」

『えっ……』





そういうやいなや、総司は身を乗り出す。



『……いたっ…!』

「痛い?君の目覚ましは、これが一番だね」

『……もう』



そう言ってケラケラ笑う総司をみる


デコピンなんてされたのは
一体何年ぶりだろうか。

総司にやられたおでこをさすりながら
私も一緒になって笑った。




こんな時間が好きだ。


総司の部活の時間も

窮屈なあの箱の中へ行く時間も
気にしなくてもいい
こんな時間が。







「……そろそろ、口止め料が切れちゃうころかな」

『へっ……?』

「君の秘密を聞かないかわりに、僕のマネージャーになってくれたでしょ?」



“でしょ”のところで小首を傾げる総司は

なんとも優しい顔で微笑んだ。




『“僕の”じゃないけどね。……んー、じゃあ』





私は立ち上がる。







『追加料金は、いくらかな?』



まだだめ
まだ、準備が万全じゃない

こころが、悲鳴をあげるには

まだまだ
弱い









「ねぇ」

『……なぁにー』



総司の声が降ってくる
ここで総司が深く追求してこないから

“あたし”の呼吸も“まだ”乱れない


ずっとこのまま
安定した呼吸法が

続けられればいい。









『…あ、』

「メール?」

『うん、ちょっと』

「何?男だったら僕悲しいなぁ」

『違うってば』



メールを開いて
スクロール。

すぐさま本文を確認する。



『………ごめん、総司』

「…ん?」

『お母さんから。すぐ帰らないと』

「そっか。じゃ、送ってくよ」



鞄をもち、教室のドアの前にたつ私に
総司の言葉がこだました。



『…ううん、大丈夫。』




自分のことだからこそ知らないフリを願うのに
明日を迎えた自分を見るのが
怖くてたまらない。






**/**/ 17:56

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