(なんと伝えれば、いいものか)

暖かな日差しに誘われるように愛馬に跨った劉備は、城から少し離れた草地を揺られながらそんな事をぼんやりと考えた。
さりげなさを装ってそっと隣に目をやると、護衛にとついてきた趙雲が同じように馬に揺られながらも視線に気付いて微笑みかけてくる。
そんな趙雲に、劉備はぎこちない笑顔を浮かべた。

趙雲と劉備が出会ったのは、もうそれなりに昔の事になってしまった。
あの頃青年だった趙雲は、同じように若かった劉備の青臭い主張に非常に共感を示してくれた。
勢いのまま傘下に加わろうとする彼を一度は引き止めたものの、再会した時も趙雲は変わらずに一途な熱情を向けてくれた。
それ以来、揺らぐことのない真っ直ぐな忠誠心で劉備に仕えてくれている。
戦場で窮地を救われたことは数え切れないし、趙雲の清廉潔白な気性は時に沈んでしまう劉備の心を持ち直させてくれた。
今だって何の気なしに散策しているように見えて、劉備に突然凶刃が向けられればその身を盾にする程の覚悟と緊張感を持っているはずだ。

(私は…世話になりすぎているな)

義兄弟の契りを結んだわけでもないのに、ただ主君と家臣というだけの関係なのに、劉備の為にと身を粉にして働く趙雲。
そんな彼と二人きりでいるという状況に、劉備は無性になにかを伝えたくなったのだった。
けれど謝礼とか、労いとか、そんなありきたりな言葉ではどう考えたって足りない。
どうしたものかと思い倦ねる劉備は、悶々と考え込む自分に趙雲が気遣わしげな視線を送っていることに気づけなかった。

「殿、どうかされましたか」
「っ、」

だから、趙雲の声にびくりと肩を揺らして大袈裟に反応してしまう。
愛馬が不満そうに鼻を鳴らした。
趙雲はより心配そうに眉を寄せたが、いま考えていたことを馬鹿正直に伝える訳にはいかない。
今更取り繕っても無理があると知りながらも、劉備は平静を装ってこほんと喉を鳴らした。

「なんでもないぞ、趙雲」
「そうですか…」

やはり趙雲は納得しない顔ながらも、劉備の言葉には逆らわずに大人しく口を閉じた。
その様子に劉備はなんだか申し訳なさを感じてしまう(元々心配をかけてしまうような真似をしたのは劉備なのだから)

「すまんな、趙雲」
「そんな、とんでもない」

劉備の謝罪に返ってきた返事は、案外と軽いものだった。
不思議に思った劉備はおやと趙雲の顔へと視線をやる。
劉備の視線を受けた趙雲は、何故かふわりと微笑んだ。

「それが私の生き甲斐ですから」

言った趙雲の顔は本当に心の底からそう思っていると言わんばかりに幸せそうで、劉備は自分の頬に血が昇ってくるのを感じた。
そんな顔は卑怯だと思う反面、それでこそ趙子龍だとよく分からない感情が湧いてくる。
それでも一つだけ確かなのは、彼に伝えるべき言葉がまた増えたということだった。


言葉にしないと、伝わらない想いもあるけど


(それを形にする言葉を私はまだ知らない)




--------------

あとがき

二人は長い間一緒にいるので、改めて気持ちを言葉に出すのは苦手じゃないかなーと思いながら書きました。
目と目で通じあえるから、思いをきちんと言葉にしようとすると何て言えばいいのか分からない。
理解しすぎて逆に青春真っ只中の中学生のようにもよもよすればいいと思います。
ありがとうございました。

ゆきうさぎ(05/05)



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