見慣れた町並みのなか、一人で立っていた。 いつもは活気に満ちていて五月蝿いくらいに騒がしい通りがしんと静まりかえっていて、なんだか無性に怖くなる。 きょろきょろとあたりを見渡しながら足を進めても、人っ子一人見つからない。 そういえばいつも一緒にいてくれる小さな相棒もどこにもいないことに気がついて、ざわりと総毛立った。 ここは違う。俺がいるべき場所じゃない。 そんな思いで頭がいっぱいになって、一人でいる事が本当に本当に怖くなった。 あいつを、あいつを探さないと。 そんな思いで咄嗟に名前を呼ぼうと口を開いた俺は、更に恐ろしいことに気付いてまった。 どれだけ叫ぼうとしても声が出ない。いくら息を吸い込んでも、情けなく喉が鳴るだけだ。 どうして、と恐怖のせいで体から力が抜けていく。でもここに座り込んだら二度と立てないような気がして、突き動かれるように走り出した。 もつれて転びそうになる足を必死に動かして前に進む。 それなのに、どこまで行っても誰もいない。声は出ない。あいつを呼べない。あいつに会えない。 俺は、一人で。ずっとずっと、一人で。 見えない塊が胸を下から押しつぶすようにせりあがってくる。眉間にじんわりと熱いものがたまって、涙がぼろぼろと勝手に溢れてきた。 あぁ、どうして俺は、大切なものをこの手にきちんと掴んでおけないのだろう。 もうあんな、心を引き裂かれるような痛み、絶対に嫌だと思ったはずなのに。 「っ!」 苦し紛れに手を伸ばしても、結局、俺はなにも掴めなかった。 「おい、慶次」 「っ!」 体を揺すられる感覚にばちりと目を開けたら、会いたくて探し回っていた顔が目の前にあった。 どういう状況なのか分からなくて混乱する頭は、けれど元親の渋い顔を見つめているうちにだんだんと落ち着いてきた。 そうか。さっきのあれは夢だったんだ。 なんて最低で最悪な悪夢だろう。 「なに死にそうな顔して寝てやがんだ」 「ごめ、ん…」 「謝ってほしいわけじゃねえよ」 そう言って元親は、俺の頭をぐいと自分の胸に抱き込んだ。 力強い鼓動が耳を打って伝わってきて、元親はちゃんとここにいるんだって安心した。 俺は一人じゃない。大丈夫だって言い聞かせる。 「お前はずっと俺の隣にいりゃいいんだよ。阿呆なんだから変なこと考えてんじゃねえ」 なにも言ってないのに的確に俺の不安を言い当ててしまう元親は、それだけ俺のことを見ていてくれてるってことだから凄く嬉しい。 言葉が荒いけど、精一杯なぐさめようとしてくれてるのはもっと嬉しい。 でも、悪い夢にうなされてへこんだ俺の心は、そう簡単に浮上してきてはくれない。 「…でも、さ」 「んだよ」 「元親が、もし、俺より先にいなくなったら、どうすればいい?おれ、いやだよ」 一人は怖い。一人は嫌だ。 もう大切な人を亡くしたくない。 ありったけをこめて、元親にしがみつく。 「だから、変なこと考えるな。俺を誰だと思ってやがる」 「だって…」 「大丈夫だ、絶対に」 頭を撫でてくれる手のひらは優しくて、引っ込みかけていた涙がまた戻ってきてしまう。 弱虫で泣き虫な情けない自分に我ながら呆れてしまうけど、元親はそんな俺でも抱きしめてくれる。 どうせいつの日か死んでしまうのなら、幸せすぎる今がいいのに。 暖かな胸に頬を寄せながら、そんな事を思って俺は瞳を閉じた。 in little time |