「あら可愛いわね、フレン」 「ジュディス」 自由行動中にばったりと顔を合わせた騎士様が両手でそっと包むように持っていた小袋に、ジュディスは興味をそそられた。 街の入り口で別れた時はそんなもの持っていなかったはずだ。 エステルの髪よりも少し薄めの桃色をした目の荒い布で作られているそれは、布よりも濃い桃色で小さな花の刺繍が施されており、ほのかに甘い匂いを周囲に振りまいている。 「ポプリ…なのかしら」 「ユーリがくれたんだ。別に誕生日でもないのに」 「あら」 ファンにでも貰ったのかと思ったのに予想が外れた。 けれど、あのユーリがこんなにも可愛らしいものを贈るというのはそれはそれで少し面白い。 あの青年はフレンには特に格好つけたがるのに。 「なんでも邪気を祓ってくれるらしいんだけど」 その言葉で納得がいった。 ユーリが何よりも大切にしたいと願う目の前の騎士様は少々無鉄砲なところがある。誰かを助けるためになら自分の身を投げ打つことも構いやしない。 多分それを嘆いての贈り物らしいが、何故かフレンは顔を曇らせている。 「どうかしたの?」 「……ジュディス、」 「なあに?」 「良かったら、これ貰ってくれないかな」 ジュディスはまあと呟いてぱちぱちと瞬いた。 フレンという人間が、好意で貰った物を簡単に誰かに譲るような人では決してないと知っていたから。 それに、これはユーリがフレンにと宛てたものなのだ。 お互いに特別に思い合う仲でのプレゼントは、普通のものよりもずっと重い意味を持つ。 「これは、私が貰っていいものじゃないと思うけれど」 「うん…そうだよね」 「なにがそんなに引っかかるのかしら」 「…嫌なんだ。邪気を祓うとか災いから身を守ってくれるとか」 フレンはポプリを大切そうに手のひらで包む。 単純にユーリが贈ってくれたという事実は嬉しいのだと、たったそれだけの仕草で分かる。 「僕に起こるはずだった不幸がこれで祓ってもらえたとして、その災いはどこに行くのかなって考えてしまうんだ」 「信心深いのね」 そういう訳じゃないんだけどね、とフレンは苦笑を浮かべる。 「誰かがそれで不幸になるなんて考えるのも嫌だ。それならいっそ、初めから自分で受け止めたほうがましじゃないか」 「…そういうことなら、仕方ないわね」 ここでジュディスが断っても、こんなに考えているフレンは直ぐに誰かに譲ってしまうだろう。 それはフレンは勿論、ユーリもいたたまれない気持ちになりそうだ。 ほっとした表情のフレンから差し出した手にポプリを受け取ったジュディスは、くすりと小悪魔のような笑みを浮かべた。 「私がこれを貰ったら、私に降りかかるはずだった災いが貴方に行くかもしれないってことね」 「そうだね」 でも、と今後の不安を指摘されたというのにフレンは安堵した表情で優しく微笑む。 「ジュディスの代わりに引き受けられるなら、喜んで立ち向かうよ」 「………ユーリの心配が分かる気がするわ」 「え?」 首を傾げるフレンに笑みを浮かべて答えたジュディスは、胸の中でそっと息を吐いた。 こんなに暖かく大切に接されてしまったら勘違いしてしまっても仕方ない。 罪作りな人ね、とジュディスは小さく微笑んだ。 お嬢さん、お手をどうぞ (慣れてはいない扱いだけど) (決して心地悪くはないの) title by AC |