「なぁ、あんたは俺のことどう思ってんの?」

蝋燭の明かりがゆらゆらと照らす背中に問いかけてみた。
それなりの覚悟を持った問いだったのに、見慣れた着物を乱れなく着こなして正座している松永は振り返りもしない。
何一つ身に纏わずに敷布に横たわったまま答えを待つ自分がなんだか惨めに思えて、慶次は布団を掴んで上半身を起こした。

「なんか言えよ」

思わず低い声になった慶次に、松永は呆れたようにため息をついてからゆっくりと顔だけを向けた。
見下すような視線につい怖じ気づきそうになる自分を無理やり奮い立たせて睨み返す。
あまりにもか弱い精一杯の抵抗に、松永は可笑しそうに口を歪めた。

「互いに答えの分かっている問答ほど、愚かなものはないと思わないかね?」
「………」

確かに慶次は松永が自分をどう思っているのか、よく理解している。
頼りなさげな火を灯す蝋燭の芯のように、一瞬先に消え去っても気にもかけないどうでもいいものでしかないだろう。
慶次は松永が何を考えているのか、よく分かっている。
だからこそ、

「全部、分かってるくせに」

先の問いに慶次がどんな答えを求めていたのかすら、松永は知っているはずだ。
例えそれが本心ではなくとも良いとさえ思っていることも。

「望む言の葉をはいそうですかと与えてやるような優しい人間ではないと、知っていると思ったが違ったようだ」
「……」

淡々とした言葉にいたたまれない心持ちになった慶次は長い髪で表情を隠すように俯いた。
そんなことだって最初から分かっている。
それでも、と思わずにいられない。

「私がどのような人間か、今一度教示して欲しいということか」
「あ…」

いつの間にか目前に迫っていた松永の冷たい手が慶次の頬を包んで上を向かせる。
そのまま塞がれた唇を、慶次は拒めやしなかった。

鋭い刃のように胸に突き刺さるような痛い言葉しか言わないくせに、松永が慶次の身体をまさぐる手はいつだって泣きたくなるほどに優しいのだ。

(だから…)

慶次は願わずにいられない。
この行為が、慶次の求めた時に松永の気がたまたま向いただけのものではないのだと。
松永にとって暇つぶしですらない、なんの意味も持たぬ行為だなんて思いたくはなかった。
なにか意味が欲しかった。偽りでもなんでもいいから。

ただ、それだけの事なのに。

何故か途方もない夢に思えて、慶次は目の前の冷たい身体に腕を回してきつく目を閉じた。


Body where only emptiness remains(虚しさだけが残る躯)


title by AC



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