「無理なら止めよ、慶ちゃん」

蝋燭の頼りない灯りだけが照らす部屋の中に、すすり泣く声が響く。
発信源は佐助に組み敷かれた前田の風来坊。
愛嬌のある顔をくしゃくしゃにして両手で溢れる雫を拭っているけれど、流れる涙が止まる気配はなかった。

「そんな急がなくていいんだ。俺様って待つ男だし?」

おどけたように言いながら、佐助は慶次の頭を優しく撫でる。
慶次が本気で人を愛することに臆病になりすぎて友愛以上の触れ合いを極端に拒絶してしまうことは恋人関係にある佐助が誰よりも一番分かっていた。
怖がる慶次に無理強いはしたくないし、怯えられるなんてまっぴら御免。
慶次が馴れるまではいくらでも我慢できると思っているのに。

「…だい、じょ…ぶ」

ぐすぐすと鼻をすすりながら言われても説得力はない。
それでも慶次はかすれた声で何度も何度も大丈夫と繰り返す。
流石の佐助もどうしたものかと一旦身をひこうとしたが、慶次の手がその肩を掴んで引き止めた。
こんなに密着していてるだけでも辛いだろうに自分から手を伸ばすなんてと佐助の目は丸くなる。

「だっ…て!」
「慶ちゃん?」

叫ぶような言葉はどこまでも必死だ。

「佐助さんが無理なら…っ、絶対に、これからも誰も無理だから、」
「…」
「だから…っ」

大丈夫。

囁くように言われた言葉がやっぱり涙まじりなことに苦笑して、佐助は慶次の頬に唇を寄せた。
大切にしたい、大事にしたいのは掛け値なしに本当のことなのだけれど、こんなにも愛おしくなる言葉をもらって今から理性を吹き飛ばしても優しくできるだろうか。

「忍の本領発揮かな」
「…?」

潤む瞳で不思議そうに見上げる慶次のまなじりの涙を親指の腹で拭いながら、佐助はそっと微笑んだ。


Counteroffensive of crybaby rabbit.(泣き虫うさぎの反撃)


(こうかはばつぐんだ!)




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