「あぁ、諸葛亮殿。後で足を見せてください」 「は?」 劉備の礼を受けて荊州の片田舎から新野に出てきて最初に言われた言葉に、孔明はことりと首を傾げた。 その動作に孔明の疑問を感じ取ったのだろう、劉備は朗らかに笑いながら唐突にすみませんと謝罪を口にする。 「草鞋を編みたいんです。ですから足の大きさを計りたいと思いまして」 「草鞋…ですか」 「はい。元々私は筵を編んで生計をたてていましたから」 つまり草鞋を編むのは得意ということだ。 しかしだからといって、一軍を率いる長がわざわざ一臣下のために草鞋を編む理由にはならない。 孔明はその疑問を素直に口にした。 「貴方が、そんな事をしなくとも良いのでは?」 言外に主君として相応しくはないと匂わせてみれば、劉備はすぐに察してもっともだというように一つ頷きを返してくる。 「諸葛亮殿の仰ることは最もです。ですが…私は、草鞋を作ることで皆を知りたいのです」 「皆を、知る」 「はい。草鞋を見れば、その人間がどのような人物か分かるのです。擦り切れ具合や痛み方、どのような頻度で作り変えるか。草鞋に触れれば、持ち主が理解できる気がするのです」 独りよがりかもしれませがと照れたように続ける劉備に、孔明は何も言うことが出来なかった。 劉備の考えに呆れた訳ではない。むしろ、その逆。 こんなにも、部下一人一人を思いやる主が他にいるだろうか。 この人は本当に、仁の世を作ろうとしているのだと身にしみて確認して、胸が熱くなった。 劉備玄徳に付いてきて、良かった。 それと同時に、強い決意が湧いてくる。 目の前の人を、必ず王にしてみせる。 彼が望む国を、作ってやるのだ。 優しく微笑む生涯を誓った主に、孔明は眩しそうに目を細めた。 感じたのは、あなたの大きな愛でした (きっと貴方に私はかなわない!) title by AC |