「兄者、兄者!」

どたどたと慌ただしく駆けてくる弟の姿に、ようやく暖かくなってきた陽気に一人(仕事を置いて)散歩をしていた劉備は驚きに目を丸くした。
昼間から酒を呑んでいたのだろう張飛の頬が赤く染まっているのはいつもの事だけれど、何故か両手で酒の盃を大事そうに抱えている。

「一体どうしたと言うんだ、翼徳」
「これをよ、兄者に見て欲しくて」

そう言って差し出してきた盃の中には、琥珀色の酒が並々と注がれている。
その、ちょうど真ん中。

「桃…か」
「木の下で呑んでたらひらひらーって」
「もうそんな季節なんだな」
「おう。初咲きじゃねえか?だから、兄者にやるな」
「………」

今の劉備は執務を抜け出した身で、つまり部屋に戻れば沢山の書類と苛立つ優秀な部下が待っているから酒なんて入れればこっぴどく叱られるのは想像に難くない。

だけど、だけれど。

「…可愛い弟のせっかくの贈り物だからな」
「兄者?」

可愛いという言葉とは正反対の位置にいる弟が首を傾げるのにくすりと笑みを返して、劉備は勢いよく盃の中味を飲み干した。


貴方の半分は優しさでできている


(それはいつも私を救うのだ)




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