「お前は俺を、嫌いだろう?」

夏侯惇の突然の言葉に、劉備はゆっくりと瞬いてから首を傾げた。

「突然、どうなされたのですか」
「いや…俺の自意識過剰な思い違いなら、それでいい」
「どういう意味で?」

要領を得ない夏侯惇の言葉は理解しがたい。
重ねて問いかけた劉備は、夏侯惇がいつになくじっと自分を見つめていることに気がついて、腹の底をひやりとさせた。
なぜか、嫌な予感がした。

「……お前の、俺への言葉は、」

嗚呼もしかしたら、夏侯惇は気づいているのかもしれない。

「まるで、俺を好いているようだ」
「…そんなこと、あるはずもないでしょう」

一拍息を詰まらせて、囁くように劉備は返事を返した。
それを聞いた夏侯惇はどこか安堵したように小さく口元を緩める。

「そうか…そうだな」
「はい」

夏侯惇に頷きを返しながら、劉備は胸の中でほっと息を吐いた。
憎む相手の気持ちなど、知らなくてもよいのだ。
それが好意だとすれば尚更に。

けれど自分はいつまで隠し通せるのだろうか。
劉備はそっと目を伏せた。


貴方の言葉は私の心に蓋をする


(それを開くときはきっとない)



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