04真相を追う

暗い部屋だった
灯りは点いている
だが、「暗い」と云う言葉はどうにも拭い去れぬ空間だった
それとも、部屋だけでなく、城全体がそうなのか
或いは、此処に在る筈の世界が

──そろそろ、良いのではないか?

男が一人、口を開く
まだ若く、しかし落ち着いた声は、静かに部屋に木霊する
両肘をつき、指を鼻先で組んでいた男がぴくりと眉を動かした
何の事だ、と男が返す

──おいおい、とぼけんなよ…分かってる癖に

渋いその声には不釣り合いに、おどけた様に男が言った
手振りは巫山戯ている風にも見えるが、本人は至って真面目で居る
彼のこう云った癖は皆承知の上らしく、別段咎めの声は入らなかった

──あの娘の事だ

今度は低く、しゃがれた声が響く
聞いて男は、眉間の皺を深くする
沈黙。耳が痛くなる程の静寂
このまま何も話さぬつもりなのか、男は少しも気配を視せない
しかし、それは男自身の吐いた息により掻き消された

──私にも分からぬ

漸く男が口を開いた
しかし、待ち侘びた筈の男の答えは、彼等には納得がいかなかった
望んだのは、明確なる返答



「──分からない、とは…どう云う事でしょう
 ノーウィスは…ゼムナス、貴方が連れてきた子ですよ」
「落ちていたから拾っただけだ」

長い前髪を揺らし、ゼクシオンが問うが、ゼムナスは淡々と、答えにならない応えを述べた
はぁ、と 一つ息を吐く
そして、僕達は、と言葉を続けた

「僕達は、ノーウィスの事を知りたいだけです
 あの子が、何者なのか」
「……」
「リーダー、いい加減話してくれよ
 隠したって何の得にもならねぇって」

尚も沈黙を続かせるゼムナスに痺れを切らし、アクセルが身を乗り出した
彼はそれをちらりと見たが、状態を崩す様子は無い
アクセルは大袈裟に溜息を吐き、どかっ と乱暴に椅子に腰掛けた
重い雰囲気が部屋を包み、何とも云えぬ感覚になる

「──あの娘は…不思議な子だ」

その空気を破ったのはヴィクセンだった

「共に居ると…心が在るような感覚になる」
「…あぁ、同感だな。それに…何故だか、あの子からはノーバディの匂いも、ハートレスの匂いもしない」
「それだけじゃないわ
 あの子、生きた人間の匂いも無いのよ」

レクセウスが言ったものに、ラクシーヌが付け足した

「私も気になり文献を調べたが、無かった
 前例の無いケースだ、何も分からない」

ルクソードが口を開く
灯りで、ピアスが鈍く光った

「──私とて彼女の事は気にならぬ訳では無い
 一通りの事はした」

漸く口を割ったゼムナスだが──彼等は続く言葉に愕然とした

「だが──ノーウィスには…記憶の欠落がみられた
 彼女は…何も憶えていなかった
 その彼女に何を訊いても、何も得られぬ」
「……記憶が…ですか」

ならばもう知る方法は無いのか
諦めかけた…その時──

「──記憶の魔女」

一つ、声が部屋に響いた
そして続けて、「彼女ならば探れるかも知れない」と言う

「でもさ、マールーシャ
 あれは"ソラ"に関する記憶、限定なんじゃなかったかしら?」
「いや、やってみなけりゃ分かんねぇぞ」
「──よかろう。記憶の魔女…ナミネを此処へ
 ……"忘却の城"の管理は──」
「──私だ。…提案した手前もある…今から連れて来よう」

かたん、とマールーシャが椅子から立ち上がる
空間に手をかざし回廊を開き、それに溶けていった







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -