02黒に輝ける光

「──ゼムナス…それは一体…?」

城に戻った彼に発せられた第一声は、仲間にとって当然の疑問だった

「拾った」
「…そ、そうか」

さも当然の如くゼムナスが言うので、顔にクロスの傷を持つ青髪の男…サイクスは、それ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった

「あらぁ、何それェ?」

空間に歪みができ、其処から金髪の女性が姿を現した
彼女はコツコツと靴を鳴らしゼムナスに近付く

「拾ったんだそうだ」

サイクスが、ノーウィスを抱えるゼムナスに代わり女性に言う

「へぇ〜、随分素敵な拾い物したわねー
 あーぁ、全身びしょ濡れじゃない。服もボロボロだし」

ツンツンと彼女がノーウィスの頬を突くと、擽ったいのか身を捩った

「…風呂にでも入れてやれ」
「えぇーっ、アタシがぁ?」

彼女に向かいゼムナスが言うと、面倒臭い、と云う表情をする
しかし直ぐ様その表情から一変し、笑みながらゼムナスの腕からノーウィスを奪う様に抱き締めた

「うん、やっぱアタシが入れたげるわ
 アンタ可愛いし、結構気に入っちゃった
 アンタ、名前なんて云うの?」
「あ…名前、ノーウィス」

一気に喋る彼女に戸惑いに似た驚きを感じながらも、ノーウィスはそれに答えた

「名前も可愛いわねー」
「ゼムナスに、もらった」
「…へぇ〜…ゼムナスが、ねぇ?」

意外に優しいのねぇ、などとゼムナスをからかう様に笑みを見せる
ゼムナスの表情は微塵も変わらなかった
彼女のこう云った性格は重々承知しているらしい

「アタシはラクシーヌよ」
「らく、しぃぬ」
「そうそう、ラ・ク・シ・ィ・ヌ」
「らくしーぬ、ラク…ラクシーヌ」
「はい、よく出来ました〜」

喋る事にも大分慣れてはきたが、固有名詞独特の言い方や発音は難しいらしかった
そんなノーウィスを気遣ってか、ラクシーヌは自身の名をゆっくりと分かり易いように言ってみせる
上手く言う事ができ、ラクシーヌに頭を撫でられると、ノーウィスは心底嬉しそうな顔をした

「ほんっと可愛いわぁ〜
 お風呂で綺麗にすれば、もっと可愛くなるわよ
 じゃ、行きましょ」

現れた時と同じく空間を歪め、ラクシーヌとノーウィスはそれに溶ける様に入っていった

「──どう云うつもりだ?」

途端に静まった空気を待っていたかの様にサイクスはゼムナスに問い掛けた

「どう、とは?」

そのサイクスからの問いを、ゼムナスは問いで返す

「いや、何か裏があるのかと思ってな」
「裏?」
「…あの娘が、我等の役に立つような素質でもあったから連れてきたのでは…?」
「生憎ノーウィスを此処に住まわせるのに理由など無い」

サイクスは、返ってきた言葉に愕然とした
内容もそうだったのだが、言ったゼムナスの纏う雰囲気に
表情は一切変わらぬものの、何時も放つ殺気に近い威圧感が少しも感じられなかった

「──珍しく賑やかだな」
「──なぁーんだか盛り上がってるね〜」

二人の会話の終止とタイミング良く、ラクシーヌと同様空間が歪み続々と黒服の男達が現れた
言葉を発したのは白髪混じりの長髪と、右目の眼帯、そして頬の傷が特徴的なシグバールと、陽気な雰囲気を漂わせるデミックス
そしてその後ろや隣には、ザルディン、ヴィクセン、レクセウス、アクセル、ルクソード、ロクサスが立っている

「調度良い…揃ったか」
「いや、ゼクシオンとマールーシャ…と、ラクシーヌが居ないみたいだ」

ゼムナスが言うと、デミックスは首を回し周りを確認する仕草をし答えた

「あぁ、ラクシーヌなら今──」
「何、呼んだ?」

声がし一同が振り返ると、何時の間に来たのかラクシーヌとノーウィスが立っていた
まだ風呂から上がったばかりで肌は薄く紅に染まり、何処か熱っぽい表情をしたノーウィスに、皆釘付けになる

「御苦労、ラクシーヌ
 …服はお前の物か?」

ノーウィスを抱き上げ、まだ少し湿った髪を撫でながらゼムナスが言う
するとラクシーヌは「んな訳無いでしょ」と呆れた様に笑った

「使ってない布見付けたから、それでコーディネートしてあげたのよ
 ドレスみたいで素敵でしょ」

流石アタシね、と自画自賛して笑うラクシーヌは他のメンバーが固まっている事に気が付いた

「この子ね、拾ったんだって」
「はぁ、拾った…ねぇ」
「ふーん? って事は此処に置くの?」
「あぁ」
「名は?」
「あっ…え、と、ノーウィス」
「へー、可愛いねー
 俺はデミックスだよ、ヨロシクね〜」

デミックスがノーウィスの頭を撫でると、ノーウィスはゼムナスの腕の中で身を捩り出した

「下りたいのか?」

ゼムナスが訊ねると、ノーウィスはこくこくと頷いた
優しく地に足を着かせると、ちょこちょことデミックスに寄り、ぎゅっと抱き付いた

「わっ、何?」

デミックスは驚きの声を上げ大袈裟に飛び上がる様な仕草をする
初対面の少女に突然抱き付かれたのだから、当り前かも知れない

「ノーウィスなりの"ヨロシク"なんじゃないの?」
「よろ、しく」

ラクシーヌが言うと、頷きながら言うノーウィス
密着している為、身長差から必然的にデミックスの胸にぐりぐりと頭を擦り付ける形になる

「あはは、擽ったいよ〜」
「でみ、くす…でみ、デミックス」
「うん、デミックスだよ〜
 あー、もう可愛いー!」

膝を着いて背を低め、ぎゅうっとノーウィスを抱き締め返す
ノーウィスは嬉しそうに頬を染め笑顔になった

「俺はザルディンだ」

抱き合っている二人に…正確にはノーウィスに高さを合わせるため腰を折り、ザルディンが低い声で名を言った

「ざる、でぃん」

ノーウィスはデミックスから離れ、今度はザルディンに抱き付く

「ざ、る ディ…ザルディン」
「よく言えたな、偉いぞ」

言うとザルディンはその力強い両腕でノーウィスを持ち上げた
俗に言う"高い高い"の図だ
ノーウィスはきゃあきゃあと喜んでいる

「あ、なんかお父さんって感じ」
「いや、どっちかってーと親父だろ」

ロクサスが思ったままに口に出すと、アクセルがそれを訂正する様に言った

「ま、いーや。俺はロクサスだよ」
「ろく さす、ロクサス」

ザルディンの腕から下り、今度はロクサスの腕へ
ロクサスは子供の様に笑いかけた

「妹って、こんな感じかなぁ」
「まぁ、そうなんじゃねぇの? 見た目の年齢はロクサスが一番近ぇのかな
 ノーウィス、俺が、アクセルだ」
「あ く、せる」
「そうそう、ア ク セ ル
 記憶したか?」
「あくせる、アクセル。記憶、した!」
「ちょっとぉー、変な言葉覚えさせないでよ
 ノーウィスはアタシが調教すんだから」
「調教って…ラクシーヌ、お前なぁ…
 お前と居さす方が変な言葉覚えるぞ」

自他共に認めるサディストから出る"調教"の単語は、何とも恐ろしかった
ラクシーヌから身を守る様にノーウィスを抱き、「な」とロクサスに同意を求める

「…俺に振るなよ…困るから」
「こんな奴等に構うな
 私はヴィクセンだ」

ヴィクセンはアクセルから奪い取る様に振り向かせる

「びく、せん」
「…"ビ"じゃない、"ヴィ"だ
 ヴィクセン」
「び、く、せん…び…ぅう〜…」
「……ヴィクセン、幼子を困らせるな。お前の名は発音しづらいのだろう
 俺はレクセウスだ」
「ふあっ」

ヴィクセンを軽く注意するレクセウス
そのレクセウスの巨体に驚いたのか声を漏らし身を退いた

「…れく、せう す、れくせうす…レクセウス」

しかしそれとは裏腹の優しい雰囲気に気付き退いた一歩をすぐ取り戻す
…が、それでもまだ恐いと云う感覚は拭え切れなかったらしい
先程の事もあり、ヴィクセンとレクセウスには抱き付かずに服をぎゅっと握るのみだった

「あら〜…残念ね、お二人さん」
「懐かれるまで時間掛かりそうだねー」
「ま、お前等二人は無理も無いってハナシだ
 お嬢ちゃん、俺はシグバールってんだ」
「しぐば、る…しぐ…シグバール」
「おぉ、言えた言えた」

軽く落ち込んでる二人から離れ、シグバールにぴったりとくっつく

「お祖父ちゃんと孫って感じ」
「正しくその通りだな
 俺はルクソードだ、宜しく」
「る、く、そーど…ルクソード」

ルクソードが抱き上げ頬を擽る様に撫でる
ノーウィスは身を捩りながら笑った

「ルクソード、パパって感じ」
「ちょっと待てロクサス
 どーしてルクソードはパパなのに俺はジイさんなんだっつーの」
「──仕方無いでしょう
 見た目じゃ必然的にそうなります」

空間の歪む音と共に現れたのは、青空と夕焼けの狭間の色の髪をした男、ゼクシオン

「あら、遅かったじゃない」
「騒がしかったので直ぐ様こちらへ向おうとしたのですが、途中でマールーシャに捕まってしまいまして」
「あー、あのナルシストに。ご愁傷様ね」
「──誰がナルシストだ」
「あ、居たの。ってか何してたのよ」
「花の手入れをしていてな
 所で…その娘は?」

マールーシャがノーウィスを指差し言う

「ノーウィスってゆーの。拾ったんだってさ
 今自己紹介中なのよ」
「そうなんですか
 僕はゼクシオンと云います」
「ぜく、しおん…ぜくしおん、ゼクシオン」

言うなりゼクシオンにぎゅうっと抱き付いた
ゼクシオンは驚きの表情をする

「それ、その子なりの"ヨロシク"」
「…可愛いですね」

率直な感想を述べると、ノーウィスは照れる様に笑った
そしてそのままマールーシャを見やる

「私はマールーシャだ」

視線に気が付きマールーシャが自分の名を口にする

「ま、る、しゃ…まーる…マールーシャ
 ……んー…」
「? ノーウィス?」

ぎゅう、と抱き付き、そのまま顔を上げないノーウィスを不思議に思い、マールーシャは彼女の名を呼ぶ

「マールーシャ、いい匂い…」
「いい匂い? …あぁ…花の香か」

言って、マールーシャは何処に隠してあったのか、桃色をした花を一輪ノーウィスに差し出した

「お前にプレゼントだ」
「わぁ! マールーシャ、ありがとう!」
「どうと云う事は無いさ
 温室にまだ沢山咲いているから、今度案内しよう」
「ほんとっ?」
「あぁ、約束だ」
「やくそく、約束!」

余程嬉しいのだろう、ノーウィスはマールーシャを抱き締める力をぎゅうぎゅうと強くする
強くと云っても、女の力であって、ましてやノーウィスは子供
苦しいと云った感覚は少しも無く、寧ろそれが心地好い程だった
──ふと、何かを思い出した様にマールーシャから離れ、ちょこちょこと小さな足取りである人物の前に向かった

「──なんだ?」

ぴたり立ち止まったのは、サイクスの前

「アンタ、自己紹介してないからよ、きっと」

ラクシーヌの言葉に、ノーウィスはこくこくと首を縦に動かした

「…サイクスだ」
「さい、くす…サイクス」

ぎゅう、と抱き付くノーウィスに、少し戸惑う様な表情になるが、しかし黙って髪を撫でてやる
ノーウィスは気持ちが良さそうに目を瞑った

──こうして、黒服の男女十三人…XIII機関と、一人の少女と云う奇妙な組み合わせの、共同生活が始まった







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