02失
必要なのは
君だけだったのに
「…お願、い、ある、…の」
絶え絶えに繋いでいく言葉
この余計な涙を溢れさせるには充分な程に痛々しい
ノーウィスは無理矢理に身体を起こし、自分の細い足で立ち、そして私に震える手を差し出した
「デート、して…、?」
今、何と言った?
デート? こんな時に? 何故!!
そんな私の疑問を読み取ったかの様に、ノーウィスは荒れる呼吸を抑えながら、私に弱々しく微笑む
「ほんの、十歩だけで、いいの」
それでも"答え"は言わない
ただ、たった十歩の"デート"を、持ち掛けるだけ
「、お願い」
今にも崩れそうな微笑みで
そんな事を言われては
「──、分かった」
その小さい手を
握るしか、
私に出来る事は──無かった
「ありが、とう」
言わなくてもいい礼をして
今までで一番と思われるような、笑顔
何故
本当は苦しくて
痛くて堪らない癖に
何故
そんな笑顔を見せられる…!!?
それでも私は
手を強く握って
ただ笑みを返すしか、
術は無くて──
「あ、」
歩き出そうとしたその時、ノーウィスが何かに気付いた様に声を発した
そして、繋いでいない方の手を、天空にかざす
壊れた月を、掴む様に
サイクスが、やっていた様に
「出来た」
ノーウィスがまた微笑う
今の月の力でか、服を変えていた
それは、花嫁衣裳の様に思えた
花束の代わりに抱えているのは、以前、ゼクシオンに作ってもらったと云う、ぬいぐるみ
「デート、しよう」
慣れないヒールの靴を鳴らし、私を促す
二人で足を揃えて、声を揃えて、ゆっくりと
「いち」
──何も知らないまま
「にい」
私は、歩み出してしまった
「さん」
その先に
「しい」
一体何が
「ご」
どんな結末が
「ろく」
待っているのか
「なな」
知ろうともしないで
「はち」
ノーウィスの望みだと信じて
「きゅう」
残酷な最後へ
「──…」
何も
「、」
何も知らないまま
「じゅう」
信じて、疑わずに
「ゼムナス」
私の正面に立って、微笑んで
「心を、貴方に」
背を合わせた私の肩に触れて
「──…」
唇を、重ねた
「ゼムナス」
温かく微笑って
「大好き」
私の前から
「サヨナラ」
その姿を、消した
「…、ノーウィス」
胸の奥が痛い
眩暈がする
彼女は何処へ行った?
ぬいぐるみと私を置いて、何処かへ行ってしまった
『サヨナラ』
囁かれた言葉が、耳から離れない
ノーウィスは、何処へ行った?
何処へ隠れた?
「──違う」
判ってる
気付いてしまった
ノーウィスは
「私の」
『 』
「、私の」
判る
これは心だ
私に心がある
「…私の」
離れたくないと思った
一つになりたいと思った
私だけのものになればいいと思った
でも
「違う」
これが、望んだ結末?
「違う」
だったら、
この言い様の無い虚無感は?
どうしようもない絶望感は?
悔しさは、哀しみは、淋しさは?
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
これが私の望んだ事──?
「違う!!」
けれど
もう、遅い
「ああああぁあぁぁ──!!」
あの言葉が
『 サ ヨ ナ ラ 』
最後だった
「十歩のデート」
水無月すう
"私の救世主さま"より
←