裏切り者
requiem aeternam dona eis,domine
et lux perpetua luceat eis ──
もう後戻りは出来ない
承知の上で歩みを進めたのだから
そう、私のこの感情を貫く事は
茨の道を逝くと云う事──
Judas
その夜は部屋で一人、文献を読んでいた
今迄纏め上げた、[心]に関してのレポート
もう幾度も読んだそれは色は褪せ所々破けていてぼろぼろの状態
それでも読まなければならない、ある種の使命感に追われながら、レポートを読んでいたのだった
城の外では相も変わらずざあざあと雨が降り続けていて、雨が窓を打ち、ガタガタと揺れるのが耳に入ってくる
時々暗い空が轟音と共に光ると云う事は、雷も鳴っているようだ
明日の朝、外に出たノーウィスが「地面ぐちゃぐちゃで遊べなーい」と頬を膨らますのだろうな、などと思うと、自然と表情が緩んだ
──ガチャ
不意に、戸の開く音が聞こえた
「どうした? ノーウィス」
ノックも無しにこの部屋に入ってくるのは唯一人、彼女だけ
ゼムナスは振り向かずにそう言葉を投げた
「…一緒に寝よー?」
「今度は何だ? 怖い夢でも見たか」
彼女の申し出は、これが初めてではない
風の音、揺れる木の影、変な夢
何か事がある毎に、ノーウィスはゼムナスと一緒に寝て貰いに来ていたのだった
「……空、ゴロゴロ〜って」
ゼムナスがレポートを閉じ、ノーウィスを振り返る
ノーウィスは涙目になって、以前ゼクシオンに作って貰ったと云う、よく判らない生物を象ったぬいぐるみを抱き、窓の外を指差している
ゼムナスは「そう云えばノーウィスが来てから初めて雷を見たな」と思いながら椅子から立ち上がりノーウィスに歩み寄る
頭を一撫でして軽々と抱き上げ、ベッドへと移動した
◆
「ねー、ゼムナス」
「何だ」
ノーウィスはゼムナスに抱き抱えられる様にしてベッドに横になっている
ぬいぐるみはと云うと、ノーウィスの隣で寝かされていた。…きちんと布団まで被って
ノーウィスの髪を撫でていたゼムナスは、その手をぴたりと止めて自分の胸に顔を埋めていた彼女と眼を合わせる
上目遣いで自分を見る彼女が可愛らしかった
そして、彼はその金の眼を、直後ノーウィスの口から出た言葉によって大きく見開く事となる…
「キスって、どんな感じ?」
絶句
まさかノーウィスの口から、そんな言葉が出るとは…
「…突然どうした」
「ラクシーヌが読んでた本に書いてあったー」
あのラクシーヌが本を
接吻と云うからには読んでいた物はやはり恋愛小説だろうか
「(ラクシーヌも意外と少女趣味だったのだな)
…ノーウィス、それはどう云う者がするのか分かっているか?」
「えっとー…好きな人同士がするんだって」
まぁ、間違ってはない
しかしノーウィスは[好き]の区別がつかない
きっとこの場合の[好き]は恋愛的な物だと云うのも分かってはいないだろう
──少し、悪戯をしてみようか
「──試してみるか?」
「えっ──ん」
言うが早いか、ノーウィスの言葉も聞かずに自身の唇を彼女のそれに重ねた
数秒触れ合った後、すっと離れ再び髪を撫でる
「どうだ?」
「…んー……なんか違ーう…?」
「? 違う?」
「なんかねー、もっと舌でくちゅくちゅってやってたよ」
「……」
再び絶句
ラクシーヌを少女趣味、と思った事を撤回しよう
「(一体何を読んでるんだ、何を)」
到底乙女らしいとは云えぬそれに、ゼムナスは思わず眉間を押えた
「んー…」
「ノーウィス?」
小さく唸りながら上体を起こすノーウィスを見て、ゼムナスも横たえていた身体を起こす
暫くそのままが続いたが、突然ノーウィスがぱっと顔を上げた
「どうし──」
どうしたのだ、ノーウィス
そう言おうとしたが、それは遮られた
他の誰でもない、彼女の小さな唇によって塞がれたのだ
そして喋る為に開かれた彼の口内には、するりとノーウィスの舌が侵入した
驚きはすぐに消え、ぎこちなく動くそれに彼も舌を絡ませる
静かな部屋に水音が響き、どちらのと云えない唾液がノーウィスの顎を伝い首筋を流れる
「ん、む…」
息苦しくなったらしく、ノーウィスが声を漏らした
ゼムナスが唇を離す
とろんとした虚ろな瞳の彼女と眼が合うと、ドクンと身体が脈打つのが感じられた
「……なんか、くらくらする…」
接吻中の呼吸法が判らず息を止めていた故に、軽く酸欠状態になっているのだろう
荒くなった吐息と共にそう言ったノーウィスが、ゼムナスの服を握り、そのまま彼にもたれ掛かった
再び、大きく身体が脈打つ
──ただの、小さな、気紛れな悪戯は
「……気持ちが良かったか?」
「……う、ん…気持ちいい、かも…」
──抑えの効かぬ、欲望へと
「そうか、ならば…
──これ以上の快楽を教えてやろう」
──姿を変えた
◆
「──あっ…ッ」
「先刻のよりも…気持ちが良いだろう?」
「ふ…あぁん……き、もち、い…」
卑猥な音と、二人の声が、空間を支配する
ノーウィスは既に一糸も纏っておらず、ただ彼に与えられる快楽に素直に身を委ねていた
彼女の中ではゼムナスの指が行き来を繰り返している
指の一本でも余裕の無い其処は、彼のそれをきゅうきゅうと締めていた
とろとろと蜜の溢れる其処に唇を寄せ、その蜜を一滴たりとも残すまいとするかの様に啜る
それと同時に赤く熟れた芽にも舌で刺激を与えた
「っあ…アッ、ひぁ!」
幾等舐めても尽きない、寧ろすればする程零れ落ちる
ゼムナスはノーウィスの其処から顔を離し、ぺろりと自身の唇を舐めた
指の動きは止まらない
「あっ、ん……ッは、ぁあん…ぜむ‥な、すぅ…っ」
限界が近いらしい
締め付けが力を増している
乱れた呼吸と自分の名を呼ぶ声
それを聞いているだけで、達してしまいそうな感覚に陥る
「や、あぁっ…ぜむ、な……やっ、だめ…」
「何が駄目…だ?」
「な、何か、くるの…ぞくぞく、って、きちゃうよぉ…ッ
ふあぁ…あ、やぁぁあぁ──!!」
ビクビクと痙攣を起こし、ノーウィスは絶頂を迎えた
生理的に流れた涙が頬を伝う
ゼムナスはその雫を優しく舐め取った
「…イッたか」
「ふあ、ぁ……いっ、た…?」
「快楽の最高潮に達したと云う事だ
……気持ち良かったのだろう?」
「うん……凄い、頭、くらくら…」
紅潮した頬、潤った瞳、艶やかな唇
全て自分を誘っている様に見えてしまう
今直ぐにでもノーウィスの膣内に自身を入れたい欲望が沸き上がってくる
それを何とか抑えようと、ゼムナスは彼女の髪を撫でた
「はぁ、ハ‥ァ……ゼムナスぅ…」
「……ノーウィスは…私が好きか?」
「うん、好きぃ…
……ゼムナス、は…?」
「…同じ気持ちだ
──否、それ以上だな」
「えへへ‥嬉しい、なァ…
ね、もいっかい、キスして」
「あぁ」
一度軽く触れて
そして深く口付けを交わす
角度を変えながら、貪る様に‥何度も、何度も
唇を離すと、銀の糸が二人を繋いだ
乱れた彼女の姿は、彼の理性を崩し去るのには充分過ぎる程に官能的だった
「‥‥ノーウィス…お前と一つになりたい」
「ひとつ…ゼムナスと? ……どう、やって?」
「‥私が、お前の中へ入る
……これは…好きな者とする、気持ちの良い事だ
先程の何倍も、な」
そう言いながらゼムナスはノーウィスの額に口付けを落とした
同時に、熱く膨張した自身を彼女の入口へと宛てがった
堅い異物をその場に感じ、ひくん、とノーウィスの身体が反応する
「……愛してる」
低い、その響く声で、ゼムナスはノーウィスにそう囁いた
そして、ノーウィスの膣内に自身を進ませる
「ひっ!ぃ…ぁああぁあぁあぁぁ!!
やっ、ゼムナス‥い、た…痛いよぉッ!!」
「ッ力‥を、抜け…」
「やぁあ!!痛いぃッ…!」
指とは比べ物にならない程の質量に、ノーウィスは悲鳴を上げた
ぼろぼろと涙を流し、必死に痛みに耐えようと無意識に唇を咬んだ
ゼムナスは唇を噛み切らないようにと、自身の指をノーウィスの口内に忍ばせる
その間にも徐々に彼のそれはノーウィスの異物の侵入を拒むそこへと埋まっていった
「んっ、ん…ぅ」
「…ッ全部‥入ったぞ……ック‥」
「いた、い‥ぜむなす、たすけて……いたいよォ」
痛みに歪むノーウィスの表情
──それすらも美しく愛おしいと感じてしまう私は、狂っているのだろうか?
鮮血が溢れ出る其処を見て、今まさに自分が彼女の処女を奪ったのだと云う事を実感する
それに千切れてしまうのでは、と云う程の締め付けが拍車を掛け、更に気を昂ぶらせた
「……すぐに良くなる」
そう、聞こえるか聞こえないか判らぬ声を合図にし律動を始めた
暫く悲鳴は続いていたが、やがてそれも無くなり、代わりに妖艶な喘ぎ声が響き出した
「ふあっ…あぁん‥ッや、あ!」
「ッ‥ノーウィス…随分と厭らしいな……クッ…痛み、乗り越えた‥か?」
「あ、あァ…き、気持ちいい……気持ちいいよぉッ…ふあぁ、ンん!」
粘着質な水音が聞こえる
二人の荒い呼吸と、喘ぎを覆い尽くす様に、城の外で雨音が強くなる
「っあ、ぁあ!また、きちゃう…ぞくぞく、ってッ……い、いっちゃう!!
ふあ、やあぁあぁぁあぁ──!!!!」
「ッ!…クッ……っ!!」
ノーウィスが達し痙攣を起こす
ゼムナスもまた、彼女の急激な締め付けに耐え切れずに絶頂を迎え、全ての白濁を彼女の中へと放った
ゼムナスは気を失ってしまったノーウィスの頬を撫でた
汗で纏わり付いた細い髪を優しく頬から剥がしてゆく
ずるりと自身を引き抜くと、愛液と血と、吐き出された精液がどくどくと流れ出た
それを手で掬い取って、ノーウィスの身体に塗りたくってみる
白い肌を、二人が作り出したそれが彩っていく
艶めかしい肢体が、更に官能要素を増す──
──これが禁忌だと云うならば
私は慶んで、それを迎えよう
全て承知の上
茨の道を──
ゼムナスはそのまま、ノーウィスを抱き締め眠りに就いた
──部屋の外に在る、一つの気配に気付かずに──
「……ノーウィス…」
手にしていた資料をぎゅうっと抱え、十三人目の彼、ロクサスは呟いた
ロクサスは、「暇な時でいいから、書庫から資料を探して持ってくるように」、と云われていた
丁度手が空いて、その資料を彼に渡しに来たのだった
「……諦めない」
雨が降り続く
彼の小さな言葉は掻き消される
「………ノーウィスが誰を選んでも…諦めない
俺は、誰にも負けない
──負けるもんか」
──雨は、止みそうにない
── Highest love to the
Judas
!
冒頭にある英文は、ミサの最初に歌われる入祭唱鎮魂歌より
「Requiem aeternam dona eis, Domine .
et lux perpetua luceat eis .」
「主よ、我等に永遠の安息を与え給え
そして永遠の光で我等を照らし給え」
(裏切り者には最高の愛を!)
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