パラベルム

『はあ、ぅ…あ、ァ…っ』
『っノーウィス…ッ』

「──便利だねェ、"空間"を操れるっつーのは」

息絶え絶えの男女の声が聞こえる
褐色の肌の男の下で喘ぐ女はまだ幼い
体も発育途中の貧相な物だ
それでも、その表情や声、仕草は充分に艶めかしい
褐色の男も、独り言を漏らした白髪混じりの男も、彼女のその淫猥な姿に興奮している
──情事に励んでいるのは二人だ
それ以外はその部屋に人は無い
白髪の入り混じる長髪の男は、自身の部屋の寝台に居る
其処からその部屋までは距離があり、声など聞こえる筈もない
──男は自身の持つ特殊能力を用いて、自身の部屋からその情事を窺えるように"空間"を繋げたのだ

『ふあ、ぁ…っゼムナスぅ…』
『くっ、う…ノーウィス…っ』

「おーおー、やらしー顔だなぁ」

繋げた"空間"は、僅かな物だ
覗き見るにはその眼と、耳があればいいだけの事
甘い情事に耽る彼等は繋がる"空間"に気付かない
男は自身の膨張したそれを、寝台の上で乱れた少女の姿を眺めながら自身の手で慰めている
交わる彼等も、男の息も上がっていく

『ぜ、む…なすぅ…もう、だめぇっ』
『ああっ…私も…限界だ』
『あっ、ん…きもちいいよぉ…っい、いっちゃうぅ!』
『う、くっ…!』

「あ──うっ、はぁ…ッ」

二人の絶頂を追う様に、男もまた達した
男の白い欲望が、自身の掌に注がれた
シグバールは、直後の独特の疲労感に暫く呆けていたが、やがてある異変に気付いた
繋げていた部屋の男女が、まだ余韻の残る体で接吻をしている
互いに舌を絡ませ、その姿はまるで貪る様に見える
二人の淫らな様子は、先程と変わらぬ風に思える──だが、何かが違うのだ

(何だ──何が違う?)

シグバールは疲労感も忘れ、その疑問を明かすべく思考を巡らせる
散らばる布
汗ばんだ肌
重なる裸体
そして、絡まり合う舌

(──…)

絡まり合う、舌
ゼムナスの舌と、ノーウィスの舌が、艶かしく蠢いている
まるで、

──愛し合っている様に──…

「……」

愛し合う、なんて表現は馬鹿げている
シグバールは思考を否定しようと、そう思いながら煙草に手を伸ばした
火を着けて一呼吸したが、どうにも何時もの様に旨いとは思えなかった

「…くそったれ」

舌打ちを一つして、シグバールは煙草を握り潰した
窓の外へ投げ捨てて、乱暴にベッドへ座り込む

──愛し合う、なんて

なんて陳腐な言葉だろうか
心なんか、無い癖に

「…そうだ
 そうだよなぁ、心なんて無ぇんだ」

だから、愛なんて言葉には意味が無い
愛なんて感じない
感じているのは、体が受ける快楽
だったら──

「奪えばいい、ってハナシ──」

呟いて笑んだシグバールの心中を、ゼムナスの腕の中で眠るノーウィスは、知る由もない…



──「ノーウィス、ノーウィス」
「うん?、…ぷ」
「…おやすみ〜」

呼び掛けて、振り向いたノーウィスの鼻と口を、ハンカチで覆った
ハンカチに染みた薬は、ノーウィスの思考を、溶ける様に遮った
崩れるノーウィスの体を軽々と持ち上げる
シグバールは闇の回廊を開き、姿を消した

──ノーウィスが目を覚ましたのは、それからそう経ってはいなかった
ぼんやりとした視界の端に、白髪混じりの長髪が見える
男は目覚めたノーウィスに気付いて、にやりと笑んだ

「よぉ、お目覚めかいノーウィス」
「シグバール…、…?」

起き上がろうとして、ノーウィスは気付く──自分が衣服を纏っていない事に
それどころか、両手首が縛られ、自由を失っていた

「???? …なにこれ…?」
「ノーウィスが逃げないおまじない
 ノーウィスは俺達の可愛ーい天使ちゃんかと思ってたけど…とんだ淫乱だったからなァ
 俺好みのメスに調教しようと思って」

そう言うとシグバールは、着ていたコートを脱ぎ捨てた
鍛えてある肉体が露になる
戦闘によるものであろう傷跡がうっすらと幾つか残っていた
突然の言葉と行動にノーウィスは混乱している
異常を察知はしているが、どんな異常なのかが分からず、次の行動が取れないのだ
そんなノーウィスに、シグバールは薄く笑みを浮かべ、そして口付けをした
舌を内部に侵入させて、ノーウィスの舌を絡め取った
条件反射の様にそれに応えるノーウィスに、教え込まれてるな、と思う
時折聞こえるくぐもった声に、更に欲望が掻き立てられた
そのまま接吻を続けていたが、ノーウィスの苦しそうな呼吸音を聞いて、シグバールは漸く唇を離す
涙目になって荒く呼吸を繰り返すノーウィスの唇とシグバールの唇は、銀糸で繋がっていた

「ふあ、あ…」
「どうよ、俺のキスは。クラクラすんだろ」
「…にがい……」
「苦い? …あぁ、煙草の所為か」

先刻吸ってたからな、とシグバールは言って、指で銀糸を断ち切った

「じゃ、次は──」

ベルトを外し、ズボンのジッパーを下ろす

「してくれるよなぁ?」
「え、え…?」
「いいから、ほら」

既に赤黒く脈打つそれを、ノーウィスの小さな唇に押し当てた
侵入してきた異物と広がる奇妙な味に、ノーウィスの顔が歪む

「やぁ…っ」
「…ってッ」

その"得体の知れないもの"から逃げるように顔を離した
その拍子に、歯がシグバールのそれに当たった。シグバールが声を漏らす

「ひっでーなぁノーウィス、男の大事なもんにそんな乱暴して」
「だっ、て……うえぇ…それ、なに…?」
「…………は……?
 何って…ノーウィス、ゼムナスの毎回──」

そこまで言って、シグバールは今までに覗き見た数回の情事を思い出した
ノーウィスはいつも、される事を受け入れていただけだった
──まともにそれを凝視した事もない

「おいおい、マジかよ…あんだけ抱いといて」

シグバールは驚愕した声を出したが、それ以上に歓喜の色が強かった
処女は他の男に奪われた。接吻の仕方も、仕込まれた
だが、それ以外は、まだ奪う権利がある。自分好みに、仕込む事ができる…!
シグバールは口端を吊り上げた

「じゃあ──教えてやるよ
 一から順に──じっくりと、な」



──暗い部屋に水気を含んだ音が響く
部屋の隅に置かれた小さな灯りの薄い光が、僅かに幼子の肌を照らし出している
音は、その少女の口から発せられていた
目の前に居る男は、苦しげな吐息を漏らす

「ん、ん…ぅ」
「…っはあ、そうだ、巧いぞノーウィス」

ノーウィスは、口には収まりきらないそれを、教わった通りに懸命に銜えている
封じられた両手をベッドに着いて、歯を立てないように気を使いながら顔を前後に揺らし、ねっとりと舌を絡ませる
先程よりも膨張し、熱くなっていた

「う、あ…ッは…」

ぞわりと背が粟立つ
──限界が、近い

「んぅっ!?」
「っく、ちょっと我慢しろよ、ノーウィスっ」

ノーウィスの頭を掴んで、強引に動かし始めた
苦しそうに顔を歪めるノーウィス
その表情すら、シグバールにとっては興奮剤になる
ノーウィスの口が届かない根元の方を、空いている右手で扱く

「──ッ出すぞノーウィス、全部飲めよ…ッ!!」
「ンんッ!!?」

勢いよく、ノーウィスの口内に白い液体が注がれた
間も無くして、その苦味と生臭さがノーウィスを襲う

「ッうえっ…え、うくっ、ううぅ…っ」

けほけほと咳き込み、口にあった精液の殆どを吐き出してしまった

「あーぁ、全部出しやがったな。飲めって言ったろ」
「う、え…だって、だって…」
「好き嫌いすんなって、ノーウィスいっつも皆に言ってるよなぁ?」
「ふえぇ…でも、やぁだあぁ…」
「泣ぁいたって駄目だぜぇ?
 悪いコにはお仕置きが必要、ってハナシ」

シグバールはベッドから一旦降りて、傍の棚の引き出しを開ける
其処から何かを取り、再びベッドへと戻る
ギシ、とスプリングが悲鳴を上げた

「これ、なぁんだ」

シグバールは、手中の黒い塊を示す
普段、持ち歩いているものに似た、鉄の塊を

「むかぁし使ってた、俺の相棒よ」

その拳銃を構える。安全装置を外し、トリガーに掛かる人差し指に力を込めた
──瞬間、部屋に轟音が響く
飾られた花瓶が、粉々になって散らばる。器を無くした水は滴り、手入れされていた
花々はばらばらと地に落ちた

「──と、まぁ、こぉんな危ないシロモノなワケだ」

銃口にフッと息を吹きかけて、シグバールは言った
その耳を劈く様な音と威力に、ノーウィスの体が震える。──怖い、怖い…!!

「さぁ、じゃあこの危ない相棒を──」
「ひっ!?」

ノーウィスの細い足を掴み、広げた
腿には先程吐いた白いものがまだ付いたままだった
それを別段気にせずに、シグバールの手は更にその奥へ伸びる。まだ茂みもない、その幼い場所へ

「い…っ」

湿り気も殆ど無い其処に指を突き立てた
痛みに、体がビクンと跳ねる

「いや、痛い、いたい…」
「お仕置きだって言ったよな? まだまだこれからだぜ、指くらいでそんな泣き言言ってたら──」

堪えられないかもな、と続けて、手にしていた拳銃を、ノーウィスに向けた

「あ、あ…やだ、やだっ」
「そんなに怯えなくても、今すぐ撃つワケじゃねぇよ」

指を引き抜いて、代わりにその拳銃を押し当てる
粗方飛んだとは云え、まだ熱の残る銃口
大きく体が波打った

「や、あ、やだぁっ」
「だぁから、お仕置きだっつーの
 ──なぁノーウィス、このままトリガー引いたら…どうなるだろうな?」
「──ッ」

ひゅっと息を吸う音が漏れる。体の震えが止まらなくなる

「ひ、い…や、」

シグバールは無言で安全装置を外す
カチリと無機質で冷たい音が、余計に恐怖心を煽る
そして、トリガーに掛かる指に徐々に力が込められ──

「──バン!!!!」
「ッきゃああぁぁ!!!!」

シグバールが大声を出し、ノーウィスが悲鳴を上げた
トリガーは──そのまま、引かれる事はなかった
ガクガクと震えるノーウィスの足の間から拳銃を引き抜く
ノーウィスは──

「あ、あ、あぁ…」
「あーあぁ、おもらしなんかして。恥ずかしいなぁノーウィス」
「ひぅ…う、うえぇ…ふあぁぁん…」

恐怖の余りに、失禁してしまった
シグバールのベッドのシーツが、瞬く間に染まっていく
涙もそれも、ノーウィスに止める事は出来なかった

「ま、これで充分濡れたよなぁ?」

シグバールは妖しく笑う
腰を落としノーウィスに近付いて、先刻まで銃口が収められていたその場所に──自身のそれを、突き刺した

「ひうっ、や、ぁ、いたい、やあぁ!!」
「っは、ぁ…キツ…」

痛い、と悲鳴を上げ、ノーウィスが首を振る
シグバールは恍惚とした息を吐く
その余韻にも浸らぬ内に、腰を強く揺らし始める
ノーウィスの幼い秘部が絡み付く

「う、あ、やぁっ、やっ…!」
「っはあ、ぁ、サイコーだ…っ」
「ひぐっ、いやっ、やだぁっ」
「はっ、なぁにが、やなんだよ。いっつもゼムナスとやってる事だろうが…っ」
「ひうっ、は、や、いたいいたいっ」
「痛いだぁ? 処女喪失と比べてみろよ、ゼムナスにやられた時の方が痛かったろうが」

動かす強さも速さも変えずに、シグバールはノーウィスに言う
シグバールの感情が昂っていく。体の限界も、徐々に迫ってくる

「っゼムナスはッ、いたく、しないっ、ふ、あ、あっ、…こんなこと、しないもんっ!!」
「何言ってんだよ、同じだろ…っ」
「ち、がう、違う! ゼムナスは、優しいもんっ」
「なんだよソレ、俺が優しくねぇとでも言いてえのかよ…!」

強い口調に、ノーウィスの肩が震えた

「う、えぇ、ひぅ、シグバール、やだぁ、こわいっ」

──怖い?
──俺が?
──どうして!?

俺はこんなにもお前を、

「うっ、えぅ、ひっく、ひ…っこわい、シグバールこわいぃ、シグバール、き…ッキライ!!」

──こんなにも、

「──嫌い…?」

──アイシテル、のに──

「──そうか、嫌いかァ…俺はノーウィスが大好きだから、こんな事してんだけどなぁ」
「っきらい、きらいキライ!! シグバールなんか大ッキライぃぃ!!!!」

──ノーウィスのそれは、本心などではなかった
ノーウィスは皆が大好きで、いつまでも共にありたくて。キライ、なんて感情とは無縁の存在だった
けれど、この行為はノーウィスには余りにも酷で。ノーウィスの抵抗は、もうこの言葉しか無かった

「あぁ……ノーウィスに嫌われたんなら──せめて──」

シグバールは、ノーウィスのその細い首に手をかけた
片手でも充分な其処に両手を回し、そして──

「っっひっ」
「これ以上、ノーウィスが俺を嫌わないように──否定しないように──」

力を、込めた

「っか、はっ、っっ」
「──逝ってくれるよなぁ、ノーウィス。俺の下で、俺の手で」
「──あ、や、っは、は、…ッ」
「…く、あっ、すげ、締ま──ッ!!」

シグバールはノーウィスの首を絞めたまま、その胎内に射精した
荒い息をしながら、首から手を離す
ノーウィスは気を失ってしまった──が、まだ息も鼓動もあった
ずるりと内部から自身を引き抜くと、其処から白いものが溢れ出た

「……」

シグバールは、傍らに置いてあった拳銃を手に取った
安全装置は──外れている

「嫌われちまったなぁ──"心"から」

一番、求めていたものから
一番、愛されたかったものから

「嫌い、って事は、いらねぇって事だ。そうだろ? …ノーウィス」

ノーウィスの手首の縛めを解き、顔中を濡らす涙を拭った

「悪いな、ノーウィス」

こめかみに銃口を押し当てて、そして

「さよなら。──"相棒"」

銃声が、谺した




The End
(si vis amari, ama.)







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