最初で最後の

「ロクサス」
「…ノーウィス」

高層ビルの立ち並ぶ暗い世界の一角
色とりどりの明かりが灯されているにも拘らず、闇の存在は大きかった
光を飲み込み、物質を飲み込み、やがては自分も、世界も包まれてしまいそうな程に
そんな場所に、少年と少女の声が伝った

「…いっちゃうの?」

か細いその声を聞くと、決した気持ちが揺らぐ感覚がする
少年は、ぎゅう…と拳に力を入れた

「どうしてキーブレードが俺を選んだのか──確かめたいんだ」

質問の答えにはならぬ応えを、少女へと渡す
それは先程、親友に言った言葉だった

「ロクサス…でもゼムナスは」
「分かってる。きっと俺を許さない
 "裏切り者"に…なるから」

無理矢理に、ロクサスは笑ってみせた
それは、引き留めの拒否だった
ノーウィスは俯き、弱々しく言葉を掛けた

「そしたらロクサス…どうなっちゃうの…?」

その答えも、もう分かり切った事だった
それでもノーウィスは、ロクサスの口から、結末を否定する言葉が欲しかった
ロクサスも、それを分かっていた

「消える‥だろうな」
「分かってるならッ、どうして…!」

ロクサスの言葉に、ノーウィスが声を荒げる
その姿に、ふと先程の親友とのやり取りが思い出された

『機関に刃向かうのかよ!?』
『機関を敵に回したら、お前は』

「…例え俺がどうなろうと
 ──誰も 哀しまないさ」

アクセルとの会話を再現するかの様だった
追ってこられる事は、正直嬉しい事だ
それでも、自分は一人行かなければならない
──"ソラ"に、会う為に

「…そんな……」

泣きそうな声を聞くのは辛い
彼女をそんな心理状態にしたのが自分だと思うと、倒れそうな程に胸が痛んだ

「ロクサスが消えちゃったら…」

ノーウィスの震える声が痛い
罪悪感が全身に突き刺さる

「……わたしは」

『俺は』

フラッシュバックする
親友と、彼女の声が、姿が重なる

「…哀しいよぅ……」

『──哀しいな』

やめてくれ、と叫びたくなる
決意が壊されていく
留まるのに充分な理由が出来てしまう
このまま振り切っても
この場に留まっても
きっと後悔する
どうして
斬り捨ててくれないんだ

「…ごめん」

耐えきれなくて、強く彼女を抱き締めた
涙が、堰を切った様に溢れる

「……必ず、戻る
 ノーウィスの所に、帰ってくるから」

そう言って、静かに唇を重ねた
触れるだけの、口付けを

「…絶対…だよ」

二人が離れる
ロクサスは背を向け、歩き出した
迷わず、そして振り返らず
やがて闇に溶け見えなくなるまで、ノーウィスは彼の背中を見送った
涙が静かに、足元に落ちた
戻ってこれる確証なんて無かった
それでも、誓わずにはいられない




嘘でも気休めでも

貴方の笑顔が欲しかった





if -Last Promise-





最初で最後の、偽りの約束







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