捌-嘆くな少女

「おはよー。朝から元気だね」
「おねーさん感想それぇ!? これは立派な虐待だよぉ、訴えて勝つ気満々だよ!!」
「まあまあそうたぎらずに。朝御飯採ってきたからさ」

大量の山菜を抱えたシグレが家の中へ入ると、美少年鍋を引っくり返して脱出した鍋のメイン──ロタローが出迎えた…と云うよりは鉢合わせた
因みにシグレの服装は胴着──空手や柔道と云うよりは、中国拳法のそれである

「ほら、リキッドさんもちゃんと作ってるじゃない」
「……ほんとだぁ、ウィンナーのいい匂い」

ご立腹のロタローを宥めようとシグレは台所を指す
リキッドが甲斐甲斐しく朝食を用意している後ろ姿があった

「そうだにゃ〜。まぁこれでも啜って待つといいにゃ」
「啜らないよ毒キノコ! お前の所為で危うくオカマになるとこだったんだかんな!」
「あ〜いやその節はどうも〜…失礼したにゃ〜」
「いだぁ!!?」

謝罪の礼の拍子に頭突きをかまされるなど思ってもみなかったロタローは、見事にクリーンヒットしたそれにわなわなと震えた。勿論、怒りにである

「こんの菌類ィー…」
「そんな事より今日は皆に新しいトモダチを紹介しに来たのにゃ〜
 おーい、入っておいでよぉ〜」

コモロくんが玄関口の方に向かって声をかけたので、その先に三人と一匹は視線を向ける
先程は気付かなかったが──何か、居た

「…どす、…おす、お…おいでやす…い、いや来ちゃったどす…あ、アラッシー…のんッアラシヤマどすぅ…」

う わ あ


フーフー息を荒げながらブツブツ何か繰り返し己の手のひらに頻りに「人」を書いている人物に、パプワ、チャッピー、ロタロー、シグレは絶句した。ドン引きである
四人の視線に気付いたソレはビクッと体を更に強張らせ「はうッ!!」と言葉を漏らした

「嫌どすなァコモロくん! まだ挨拶の予行演習中でしたんにぃ!」
「ごめんにゃ〜」
「な、なにアレ…漫画描くときポーズとる人形に話しかけてたよ」
「き、きっとAIなんだよ、相槌してくれる高性能なデッサンAIなんだよ、きっときっと!」
「シグレそれはちょっとムリがあるぞー」
「わう」

もう慣れたらしいパプワとチャッピーがツッコミを入れる
ロタローとシグレは絶賛ドン引き中である。パプワ島新入りの二人には、この人物は刺激的過ぎた

「紹介するにゃー。新しい仲間のアラシヤマくんだにゃ」
「ア、アラシヤマどすッ
 職業 刺客、座右の銘は友情パワー」
「は、あ、…ど、どうも、シグレです」

コモロくんに促され再度自己紹介に挑む男。ガッチガチに緊張し、汗はだらだら、笑顔もぎこちない
しかし散々な自己紹介であっても、されたら返すのが礼儀。それを重んじるサムライ──そうであった事を忘れていても──であるシグレは、「職業が刺客ってなんだよ」と戸惑いながらも名乗り返した
……途端、くわっと見開かれる男の目

「ひえ」
「い、いいいい今ッ、わてに名乗り返してくれはったんどすなっ!?」
「え、だって貴方以外の誰に名乗る必要が」
「コモロくんどないしまひょ! 初めての経験で沸騰しそうどすぅぅ!!」

顔を両手で覆いながら悶絶する男にシグレは改めてドン引きした
対してロタローは冷たい目で以て男を見据えている

「で、品種は」
「ひっ、品種て! 立派なホモサピエンスどすっ
 ……いやですわぁ、わての事お忘れになったん。コタぶへぁっ!!

男が何を言いたかったかは分からない。リキッドがタコさんウィンナー踊る熱々のフライパンで顔面ビンタを食らわしたからだ
そしてそのまま家の外へと引き摺り──何か生々しい音をさせた後、赤にまみれたリキッドだけが戻ってきた

「さぁご飯にしますよ」
「ねぇリキッドさん何か一犯罪おかしてこなかった?」
「ご飯の前にその赤いのどうにかして! 怖すぎ!!」
「赤い原因については触れないんだなシグレー」
「だってもっと怖いもん」
「リキッドぉぉ〜あんさんよくもぉぉ〜っ」
「ひええ! 一段と怖い人になってきたぁ!」
「チィッ頑張り屋さんめッ!」

リキッドは男の全身の負傷に畳み掛け、再び外へと引き摺り出し、再び生々しい音をさせた後、今度は新たにボチャンと謎の水音を響かせた

「さぁご飯にしますよ」
「海に何か大きな物を投げ捨てる音がしたよ」
「海水は乾くと塩だらけになるから洗い流した方がいいよ」
「それより先刻からずっとタンノくんがゆだってるぞー」
「おっといけね
 はいよ、たんとお食べなさいちみっこ達」

皿に丸々横たえたタンノくんを目の前に、シグレは「ダシじゃなかったのか…」と呟き、間髪入れずに「今のは一般者のツッコミではなかったな」と思った
パプワ島二日目にして、僅かであるが確実に馴染んできているシグレであった







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -