陸-破廉恥疑惑
やっと落ち着いた呼吸音を聞いて、男はほっと安堵の溜息を落とした
眠る少女の額に浮かぶ汗をそっと拭う
男の心配と不安は、二種類あった。この少女の按配と、もう一つは少女の仕事柄だ
男は、洗い乾かし畳んである彼女の衣類に目をやった。「誠」の字を背に負う、その着物を
そして、腰に差していた日本刀
──間違いない、彼女は
(狼国、壬生の…心戦組)
恐らく彼女は、この島に「仕事」で来たのだ
しかし途中で天候が崩れ荒波に飲まれたのだろう、彼女が着いた時には、船は最早原型を留めず、無残に破壊された残骸があるだけだった
そして
(記憶が、)
男達が彼女を発見し声掛けた時、彼女は自分が誰なのかも分からなかった
それは、男達にとっては都合が良かったのかも知れない
(商売敵だし、な…一応)
静かに寝息を立てる少女に、「可愛い」とときめいてしまったのは、きっと気の所為だ
「あーーーーっ!!」
少年独特の高めの声に、男は自身の思考から現実世界へと引き戻された
顔を上げると、自分を見下している金髪の少年と目が合った
「ちょっと家政夫、おねーさんに近寄るなよ!
目覚めた途端目の前にヤンキーの顔があったら気分悪くなるだろ!!」
「ロタロー、そんな大声出すと起きちゃうぞー」
ロタローに続き、パプワと、犬のチャッピーが戸を潜る
「だってパプワくーん、このヤンキー家政夫がおねーさんにセクハラするんだよおぉ」
「わう」
「いつセクハラした!! そーゆーシャレにならない冗談はやめろ!」
リキッドがそう叫んだ所で、布団の中の少女が身じろいだ
三人と一匹の意識は、直ぐ様そちらに集中する
遂に、うっすらと眼を開けると──
「…ひっ、…や、ヤンキー…」
目の前のリキッドに驚く
…と、云うか、怯えた
「ほらっ、家政夫に怯えてるよ! 嫌がらせだよ! セクシュアル・ハラスメントだよ!
おねーさん、大丈夫?」
落ち込むリキッドを押し退けて、ロタローが顔を覗き込む
可愛らしい少年の顔に、フッと緊張が解れた
「えっと、わ 「わあぁあぁーーーー!!!!」」
身体を起こしながら、自分がどうしたのかを訊こうとすると、ロタローが突然顔を真赤にして叫び出した
リキッドは鼻血を吹いて、パプワとチャッピーはお互いに眼を覆い隠している
「え、な、何?」
「はぁ〜い、女の子の調子はどうー? …って、」
「きゃあぁぁ、なんて破廉恥な!」
オカマなナマモノ、イトウくん・タンノくんが、家に入ってくるなり叫ぶ
何が破廉恥? と視線を辿り、着いた先は──自分の身体
「えっ、ちょっ、な…なんで裸なんだよォォ!!!?」
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