「はい、トレーナーカード三人前!」
「ありがとうございます。二人前で良かったのに」
「レッドその位にしてあげてグリーン泣いちゃうから」
「だ、れ、が、泣、く、か!!」

私からトレーナーカードを受け取ったマサラの仲良しトリオは、それはそれは嬉しそうにはしゃいだ
後ろの子供が三人、つられて笑っている。尻尾はえてる。甲羅しょってる。植物はやしてる
これが最近話題のナントカ装置とか云うので人の姿になったポケモンか。でも尻尾とかが無かったら正直おねーさん見分け付かないわぁ

「はいはいグリーンいじめやめ!
 ボールも買ってくでしょ? ご贔屓さんだからサービスするわよぅ!」
「お姉さんバイトじゃなかったっけ。勝手にサービスしていいの?」
「いーのよぅ裏で棚の整理しかしない店長よりよっぽど働いてる私の方が偉いから!」
「お姉さん後ろで店長さんが泣いてるよ」

あら店長居たの。気付かなかった

「それよりボールと傷薬は勿論だけど初心者トレーナーの旅のお供にはやっぱマヒ治しと毒消しは必須よぉ」
「じゃあ初心者セットを三人分お願いします。あ、グリーンのはサービスしないでいいです」
「お前なぁぁぁぁ!!」

レッド少年のスルースキルも中々だわね。見習えグリーン
私が特製初心者セットを詰めている間も幼馴染み二人にいじられるグリーン少年かわいい

「はい、詰め込み完了! 特製初心者セット今ならなんと少年少女に優しい50%オフ! 千円になりまーす」
「ごじゅっ…ほんとに大丈夫なのかよその値段」
「だぁいじょーぶよぅ! オフにした分は店長がどうにかするから!」
「お姉さんがどうにかするんじゃないんだね」
「おねーさんしがないバイト店員だからどうにも出来ないわぁ」
「ええ…」

マサラの三人組は何だか呆れたように私を見てそれぞれ初心者セット代を支払った。なによぅその顔。傷ついちゃう
鞄に初心者セットを詰め込んで、三人は再び私を見た。今度は呆れた顔じゃあなかった
真剣な目。トレーナーの、目

「じゃあ、お世話になりました」
「最後にサービスしてくれてありがとな!」
「暫くは来れないけど、その分大活躍してみせるからね!」

言葉が出なかった。何も。私も、後ろの店長も
この子達は、こんな目が出来るんだ。いつのまに。私は、知らなかった。何度も会っていたのに、話していたのに

「それじゃあ、いってきます!」

三人は仲良く声を揃えて旅立ちを告げた
店から出ていく後ろ姿に声を掛ける事も追い掛ける事もできず、その光景がただ滲んでぼやけて見えた

「大丈夫かい」
「…てんちょぉー…」
「寂しくなるね。弟や妹みたいに思ってたもんねぇ」
「……泣いてないでず…」
「ぼく何も言ってないよ」
「…泣いてなぃ……」
「…棚の整理終わったしレジ入ろっかな。休憩入っていいよ」
「あい…」

珍しく店長が空気読んでくれたので遠慮せず奥に引っ込んだ
暫くはずびずび鼻啜ってるだけで済んだけどいつの間にか大声上げていた。なんかプッツンした

あとで聞いたけどトキワのフレンドリィショップに謎のポケモンが出現して暴れまくったと云う噂が流れて一週間くらい売上げ落ちたらしい

だが! 私の知ったことじゃあない!




若葉のトキワ
-ある店員の話-







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