「──で、ね。手紙の他に、これが入っていたんだ
 きっと、何かの手掛かりになると思うよ。持っていきなさい」

マゼはシアンの手にそれを握らせた
シアンの掌の上の葉を象ったそれを眺め、マゼは遂にこの日が来てしまったのだと思う
ポケモンを通じて得た親友を、推測ではあるが恐らくはポケモンを通じて無くし、そして皮肉にも愛娘をポケモンを通じて手放す事になるなんて──
しかし、頭の片隅で、マゼは分かっていた。シアンはシアンの実父の背を、追うであろうと──

「これって、ジムで貰えるバッジ?」
「そうみたいだね。だからきっと、研究員じゃなくてポケモントレーナーになったんだと思う」
「じゃあ──その内、会えるかも知れないね!」

トレーナーならば、街を転々としている可能性がある
それなら、これからカントー中を巡るシアンと会う可能性は、研究員であるよりはずっと高いだろう

「シアン、これからこのヒトカゲと一緒に旅に出て、色んな人やポケモンに会って、楽しい事も苦しい事も、色んな事がいっぱいあると思う
 全部をシアンと、シアンのポケモン達で決めていかなきゃいけない
 これはシアンの冒険だ。シアンの好きなように、いきなさい
 進みたいなら進めばいい。戻りたいなら戻ればいい。でも、無理だけはしない事。いいね」
「うん!」

シアンが頷くと、マゼはその頭にぽんぽんと手を置いた

「よぅし。シアンはいいこだね
 ヒトカゲ。シアンと仲良く、シアンを宜しくね」
「あ、えと、はい!」
「うん、ヒトカゲもいいこだ」

マゼは屈んでヒトカゲの赤い頭を撫でる
ヒトカゲは嬉しそうに笑い、隣のシアンの手をぎゅっと握った
こん、とマゼの足元でロコンが鳴いたので、マゼはロコンを抱き上げた

「僕からのお話はおしまい。皆に挨拶に行っておいで」
「うん! …あ、そうだ、父さん。その前にお願いがあるの」
「ん?」
「その白衣、欲しいんだけど…」

シアンの言葉にマゼはきょとんとする

「…え、これかい? 別に良いけど…新しいのあるよ?」
「んーん、父さんが着てるやつがいい!」

シアンの言葉を聞いてマゼは照れ笑いを浮かべて、着ている白衣を脱いだ
軽く畳もうとしたが、シアンがすぐ手を差し出したので、そのまま手渡す
シアンはそれを羽織り、嬉しそうにはにかんだ




始まりのマサラ
-君にあげる-







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