「では、図鑑完成、待っとるぞ
 いつ出発するんじゃ? 色々準備もあるじゃろうから、そんな急かんでもいいんじゃが」
「何言ってんだよジーサン!」
「出発日なんてもう決まってますよ」
「勿論、今すぐ出発!」

オーキドの問いに答えて、三人は顔を見合わせて笑う
まさかそんな回答がくるとは思っていなかったオーキドは驚いたように目を見開いた
マゼを見やると、やっぱりね、と云う風に困ったような苦笑いを浮かべていた

「実はねー、もういつでも冒険できるように準備万端なんだ! ね!」

シアンが言うと二人も笑って頷いた
オーキドとマゼは顔を見合わせた後、やれやれと諦めた風に笑んだ

「まあ、善は急げと言うからの。お前達が良いなら是非お願いしよう
 頼んだぞ、レッド、グリーン、シアン
 でも出発前に、皆に挨拶していきなさい」
「じゃあ僕等は一旦解散、挨拶と荷物持ったら、また来ますね」
「よーし、負けねえかんなレッド!
 俺は姉ちゃんに地図もらってこよっと!」

二人が研究所を後にする。シアンはヒトカゲと手を繋いで、足元のロコンを抱え上げた
それを見てマゼはオーキドに訊ねる

「博士、僕も一度自宅に戻っても宜しいですか?」
「うむ。ゆっくり話してくると良い」
「はい。シアン、行こうか」
「うん! ヒトカゲ、行くよ!」
「あ、あ、うん!」

二人と二匹は研究所を出て、すぐそこに見えている自宅へ足を進める
マゼはシアンからロコンを引き取り、いつもの優しい声で言った

「なんかごそごそ用意してるからもしかしたらと思ったけど、やっぱりね」
「えへへ、やっぱ父さんにはバレてたかー」
「分かるよ。ずっと一緒に居るからね」

ズボンのポケットから鍵を出し、マゼはドアノブの鍵穴に差し込み、捻る
玄関を過ぎリビングへと進む
玄関で「ただいま」と言えば「おかえりなさい」と元気な声が返ってくる事。リビングで「ただいま」と玄関からの声を聞けば、間もなく笑顔で愛娘が現れる事。その当たり前だった事が、当たり前ではなくなる
シアンの旅立ちが、マゼは嬉しくもあり、寂しかった
しかし、ポケモントレーナーとして旅立つ事を決意したのは、シアン自身。彼女が自分で選んだ道だ

「シアン、前に約束したね
 君が大きくなって、何でも一人で決められるようになったら──」
「お母さんと…本当のお父さんの事を、話してくれるんだよね」

──マゼとシアンは、血の繋がった親子ではない
別段、シアンはその事を気にしてはいなかった
マゼを父として愛しているし、マゼもシアンを本当に自分の娘のように思って過ごしてきた
しかし、本当の両親の事は、やはり気になる

「シアンのお母さんは、シアンの小さい時に亡くなったって、話したね
 それから暫くして、シアンのお父さんが僕を訪ねてきた
 そして──これから暫く家を空ける。いつ戻るかは分からない。明日かも知れないし、一年後かも知れないし、十年後かも知れない。それまで、この子を頼む──って、一緒の研究チームだった僕に──シアン、君を預けたんだ
 それから何年も彼から連絡は無かった。けど──ほんの数年前に、手紙が届いた
 差出人の名前は書いてなかったけど──間違いなく彼が寄越したものだった
 内容は、自分でなく僕が君の実父だと云う事にして欲しい、もしもう僕と君が親子でないと知れていても、君に自分の事を訊かれても言わないで欲しい。って」
「……父さん、話しちゃってんじゃん。いーの?」
「いーの。僕のシアンちゃんを何年も放っておくような人なんか知りませーん」

マゼは何年も連絡が無かった事に相当憤りを感じているようだった
父さん結構根に持つから怖いんだよなあ、とシアンは思いながら、子供のような表情で怒るマゼに笑みを向けた




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