「あ、シアンちゃんおかえり
 博士、おはようございます」
「おっせーぞ、シアン、じーさん!」

扉の開く音に反応しそちらを向き、二人の少年はそれぞれ言葉をかける
「いやー、すまんすまん」とオーキドは二人に手を振り、シアンはレッドに笑顔を向ける

「ただいまレッド!」
「…おい、オレは無視かシアン!」
「……と、グリーン」
「…………おい」
「博士、今日はどうして僕達を? 研究のお手伝いですか?」

何かにつけてどうにも突っ掛かってくるグリーンにシアンはわざと名を抜かす
半ば本気で落ち込みかけているグリーンを放置し、レッドはオーキドに問う

「うむ、研究の手伝いと言えば手伝いなんじゃが、いつもとは少し違う
 ──知っての通り、ワシはポケモンの研究をしとる。月日を追う毎に研究は進んでおるが、同時に…いや、それ以上にポケモンはどんどん発見されておる
 全てのポケモンを知りたい、しかし一度に全てを知る事は出来ん。そこで、まずはカントーのポケモンから徹底しようと思っての」

言いながらオーキドは窓際の棚から赤色の小さな四角を三人にそれぞれ手渡した

「それは"ポケモン図鑑"
 カントーで確認された百幾つのポケモンの基礎データが入れてある」
「…でも博士、中、真っ白ですよ」

シアンは図鑑を開いた
レッドの言う通り、電子画面には何の表示もない。カチカチとボタンを押しても、何の変化も見られなかった

「今は真っ白じゃが、ポケモンに会うとその基礎データが引き出され、捕まえれば適切な単語を組み合わせそのポケモンに関する文章を作り上げるように出来ておるんじゃ」
「へー、すっげーハイテクじゃん!
 これ、オレ達にくれんの?」
「勿論、そのつもりで渡したんじゃ
 本当は自分の手で図鑑を完成させたかったんじゃがワシももうジジイ! カントー中を巡るなんて出来んからの
 お前達に、図鑑を完成させて貰いたいんじゃ」

笑いながらオーキドは自分の腰を擦る
確かに年齢の問題もあるだろうが、立場上、研究所を離れる訳にはいかないだろう
三人は承諾の意味で頷いた

「でもおじいちゃま、私達自分のポケモン持ってないよ」

シアンの言葉にオーキドはにこりと笑い、自分の横にある机に手を置く
他の机や棚のように書類に埋もれず、モンスターボールが三つ、並べられている机に

「──ここに、三匹のポケモンがおるじゃろう
 お前達に、一匹ずつプレゼントじゃ」

オーキドの言葉に、三人は歓喜の声を上げる
研究所に来る度に、気になっていたモンスターボール。それを、自分達にくれると言うのだ

「レッド! 先に選ばせてやるよ
 オレは大人だからがっつかないのさ!」
「はは、何言ってるのさグリーン
 レディーファーストだよ、シアンちゃん選んで」

余裕を見せたかったであろうグリーンにレッドはにこにこと笑いながらシアンに先に選ぶよう促す
しかしシアンは首を横に振った。悪戯っ子のような笑顔で二人の顔を見る

「私達さ、昔っから好きなもののタイプって被らないよね
 好きな色も食べ物も、テレビも本もゲームも。いつだって取り合いにはならなかった」

シアンの言わんとしている事を理解し、二人の少年も愉快そうに笑う

「成る程な、いーじゃん、やろうぜ」
「そうだね、いいと思うよ」
「よーし、それじゃあ──」

三人は机のすぐ傍まで近付いた
卓上のモンスターボールを見つめる
赤い半透明の部分から、中に居るモンスターも同じように三人を見つめていた
三人は同時に顔を上げ、同時に笑う

「いっせーの、せ!」

そして、同じく声を合わせ、モンスターボールに手を伸ばした




始まりのマサラ
-研究所にて-







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