「おはよーございまぁす…って、あれ? おじいちゃまは?」
研究所の一番奥、オーキドのデスクがある部屋
其処にレッドとシアンは入ったが、自分達を呼び出した張本人・オーキド博士は居なかった
代わりにデスクに行儀悪く浅く腰掛けていたのは、彼の孫でありレッド達と幼馴染みの少年だった
「よー、お前等も呼ばれたのか
けど、じーさん居ないぜ」
「え、そうなの?」
「そうなんですか? おじさん」
レッドがグリーンが居る方とは逆を向いて声を出す
おじさん、と呼ばれたのはシアンの父・マゼだ
「うん、先刻外に出たきり、戻っていないよ」
「ったく、人呼んどいて居なくなるなよなぁ」
「じゃあ私、ちょっと外見てくるね」
「僕も一緒に行こうか?」
「あはは、大丈夫だよ、コンちゃんと一緒に行くから
いってきまーす」
シアンはパタパタと研究所を出ていく
マゼの足元にいたロコンが、その足音を追い掛けた
「おじいちゃま何処だろーねぇ、コンちゃん」
こーん、とシアンの足元でロコンは声を上げる
人間がポケットモンスターと呼ばれる生物の言葉を理解する事は難しい。逆ならば有り得るが
しかしシアンは「そっか、知らないかぁ」とロコンを抱き上げ、その頭を撫でる
シアンは何となくだが、ロコンの言葉や気持ちが理解できた。ロコンも反論しない辺り、間違ってはいないようだ
ロコンはシアンが生まれた時から一緒に暮らしている、兄弟のような存在であった
「おじいちゃま、居ないねぇ
トキワの方に行っちゃったのかなあ」
シアンとロコンはトキワシティへと続く草むらを眺めた
マサラは小さな田舎町だ
歩き回っても見当たらないと云う事は、町内には居ないのかも知れない
──不意に、草むらが揺らぎ、ガサガサと音がした
シアンとロコンはそちらへ顔を向けた。姿は見えないが、恐らくはコラッタかポッポだろう
シアンはその揺らぐ箇所へ向かうべく、一歩足を踏み出した──その時であった
「待てー! 入ってはならーん!」
聞き慣れたその声が、後方から聞こえたのは
シアンとロコンは振り返り、声の主が自分達に向かって走ってくるのをその目に捉える
「あ、おじいちゃま!」
「シアン! 一人で草むらに入っちゃならんといつも言っとるだろう!!」
「ごめんなさぁい。でもコンちゃん居るから…」
ロコンを抱え直しながらシアンはオーキドに謝る
オーキドは息を整えつつシアンとロコンを見比べる
「しかしロコンもシアンの手持ちじゃないからのう…
まあでもここら辺の野生のポケモンはマゼくんのロコンを見れば逃げるからいいんじゃが…しかしどうしてシアンはこんな町外れにおるんじゃ?」
「だってマサラ中見たけどおじいちゃま居ないんだもん」
シアンの言葉にオーキドは目を見開いた
次いで、申し訳なさそうに困った表情になる
「…ワシを捜しに来てくれたのか」
「だぁって、私達呼んだのおじいちゃまでしょ?」
「そうじゃった、すまんのぅ」
「もー、おじいちゃまポケモンの事以外すーぐ忘れちゃうんだから!
ね、今日も研究のお手伝い? いつもより時間早いけど」
「ああ、その事なんじゃが…いや、研究所に戻ってから話そう
グリーンとレッドももう来とるかの?」
来てるよ、とシアンが答える
二人は少し早足に、研究所に向かった
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