果実とハーブに福音を






クラリネスにも夏が来た。強い日差しにからりとした、だけどやはり温度の高い空気が国中を包む。
そんな季節でも、当然近衛兵団の訓練はいつも通り行われる。燦々と降り注ぐ太陽に汗を滴らせ、やっとの休憩でも我先にと冷たい水を求めてまた一汗かく男達は、見ているとさらに暑苦しさが増すようだ。
そんな毎年の夏の光景に、今年は一つの変化があった。

「近衛兵団のみなさん、お疲れ様です!薬室から、かき氷の差し入れになりまーす!」

水分補給に勤しむ兵たちの前に現れたのは、木々もミツヒデもよく知る赤髪の少女。傍らには、リュウの姿もある。

「かき氷?」
「はい、この前室長のお使いで行った町で見つけて、私達でも作ってみようということになって。細かく削った氷に蜜をかけて食べるんです」

木々さんもどうぞ、と渡されて、しげしげと器の中身を見つめる。氷の山と、飴色の蜜が日の光に当たってきらきらと輝いて、綺麗だった。スプーンで掬って口に含めば、さわやかな香りががふわりと広がる。果実のような瑞々しい甘さと、冷たい氷が運動後の体に染み渡っていくようだ。

「おいしいね、これ。蜜は果物で作ったの?」
「そうです、オランの実と、レモニア、あと数種類のハーブなどが入ってるんです」
「へえ、さすがは薬室だね」

聞けば、その蜜は体を動かしたあとの疲労回復や、水分補給に有効なものたちばかりでできているという。それは、訓練でたくさん動く兵たちに向けたもので、他にも目の疲れをとるものや、睡眠不足や肌荒れに効くものなど、何種類か作ったらしい。それを、差し入れとして城の人々に配っているのだという。どうせなら皆の役に立つものをと思って、とはにかむ姿は愛らしく、そして薬剤師としての誇りが感じられる。

「木々!白雪!」
「ミツヒデさん!お疲れ様です、ミツヒデさんもどうぞ」

団長と話していたらしく、少し遅れてミツヒデが駆け寄ってきた。白雪から器を渡されると、おお、綺麗だな、と呟いて一口食べる。途端、目を輝かせてぱくぱくと勢いよく掻き込みだした。

「うまいなあ、これ!この蜜、果物で作ったのか?」
「はい、果物とハーブの薬室特製シロップですよ」

白雪が木々にしたのと同じようにミツヒデへ説明すると、さすがは薬室、と感心したようにミツヒデが言う。それを聞いて、白雪が、ふふ、とくすぐったそうな笑い声を漏らした。
ん?どうした?と、二人そろってきょとんとした様子のミツヒデと木々に、白雪は笑みを深めながら告げる。

「だって、ミツヒデさんと木々さん、同じ反応ばかりするので」

思わずといったように顔を見合わせる二人に、白雪からはまたあたたかな笑い声がこぼれる。
丸く見開かれていた二対の瞳は、すぐに甘く、互いを慈しむように細められた。照れるでもなく、ただ穏やかに微笑み合う二人に、白雪は彼らの想いの深さに触れたように感じる。それがどこまでも幸せで、喜びが溢れて笑顔に変わり、二人へと向けられる。
自分の大好きな人たちが、想いあって、幸せでいる。それがどれだけ嬉しいことか。この先、何年、何十年と変わらず、いやもしかしたらもっともっと深くなっていくかもしれない、紛れもないその愛情に未来を見て、白雪の心は優しく満たされていく。白雪が知らない時間すら含む、長い長い軌跡。背中をあずけ、手を取り歩幅を合わせ、そして正面から抱き合えるようになった二人は白雪の憧れだった。そんな彼らの幸せの旅路を、白雪は今も、昔も、そしてこれからも、ずっと願い続けている。そしてその願いに応える足音は、ずっと彼女の耳に響き続けるのだ。









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