「とある一大勢力を誇るマフィアの幹部。それが彼女の肩書きだ」

「なっ、マフィア!?」

「ただし、表向きはな」


日本でいう暴力団員だが、世界には日本とは比べものにならないほどの犯罪を行う組織である。

その一大勢力と言うものがどれほどかわからないが、若くして幹部の座に就くとは一体どんなことをしてきたのか。自然とコナンの視線も鋭くなる。
ただでさえ評価の高くない彼女に対する印象が下がるが……表向きは、とはどういう意味か。


「彼女が望んで得た地位ではないそうだ。そもそも裏社会に入ったのも巻き込まれて無理矢理だったらしいからな」


無理矢理ということは彼女自身は被害者だったのかもしれないが、馴染んでしまった時点で同情の余地はない。
厳しい目付きを変えないコナンに赤井の語る口調に苦笑が混じる。


「ただの中学生の子供がマフィアのいざこざに巻き込まれて何事もなかったかのように戻れると思うか?」

「……は?中学生って冗談……」

「偶々マフィアの次期ボス候補がクラスメイトにいたようでな、その子も元々は裏社会とは無縁で生きていたらしいが……彼女は優秀すぎたんだ。マフィアに目を付けられ、手放されなくなるほどにな」


凡人であれば目を付けられることはなかったし、たとえ偶然巻き込まれたとしてもその内に解放されただろう。
たとえ無傷では無理だったとしても、まだ一般人の範囲で生きて行けたはず。

幸か不幸か……間違いなく彼女には後者だが、マフィアに幹部の地位を与えられるほど優秀すぎた彼女には選択肢が他になかったと言える。

絶句するコナンに赤井は調べた限りの情報を頭に浮かべながら、話しておくべき内容をまとめた。
そんな経緯だからと同情だけで見逃すほどFBIは甘くないとコナンは知っているからこそ、焚き付けてしまう可能性を理解しつつも事実を語る。


「彼女がどうやって組織に近付いたか知ってるか?」

「……いや、情報関係の腕を買われたとしか」


情報収集、操作の類い稀な手腕から組織に『マデイラ』というコードネームを与えられた。
となれば近付いた手段も自分の利用価値を見せたことで取り入れたのだろう。

彼女がノックだと知る前、翻弄させられた記憶を思い出してコナンの表情が歪む。


「その通りだ。……ジンの子飼いの情報屋としてな」

「!?」

「正直、彼女が安室くんに明かさなければノックだと気付けなかっただろう。それほどまでに彼女は完璧にあの男から信頼を得ていた」


あの警戒心の強い男から信頼を得られれば組織の中でも自由に動ける度合いは変わる。
それがわかっていても実行できる人間がどれだけいることか。
メリットが大きくともリスクの高い賭けに乗れる人はそう多くはない。

そして彼女はそれをやってのけたのだ。


「敵に回したくないと彼女を幹部に縛り付けたマフィアの気持ちがよくわかる。敵対すれば身を滅ぼすのは間違いなく我々になるだろうな」


そう赤井に言わせるほどの人物なのだと、とうとうコナンは受け入れざるを得なくなる。
味方だと言い切れない不安感はあれど、敵に回さなければいいのだと理解して相応の態度を示すFBIに納得するしかない。

後日、組織を壊滅させる作戦においてのあらましを実際に彼女の行動を見続けた安室から聞いたコナンは絶句した。
ただでさえ組織一の切れ者を騙す頭脳も恐ろしかったというのに、あの華奢な体格からは想像できないほどの立ち回りで物理的な壊滅に一役買ったどころかほぼ成し遂げたという。

敵対することは絶対に避けたいと言った赤井の言い分を肯定しつつ、やはり探偵の性分であろう。
いつかは白日の下に晒し出してやると美しくも冷たい容貌を思い返し、決意を新たに表情を引き締める。

元の体を取り戻した高校生探偵が少しずつ日本から世界へ進出してくるまでそう遠くはない話だった。




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565000キリ番を踏んだ成世さんリクエスト夢でした。

傍観者×コナン設定で別視点、夢主の特異性がわかるような話にしたつもりでしたが如何でしたでしょうか?
読み返して気付きましたが名前変換が一度もなくて申し訳ありませんが、わざと『彼女』と表記してますのでご理解頂ければと。

リクエストを頂いてから書くまで遅くなってすみません……!
その分だけ少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
リクエストありがとうございました。




叶亜