「……諸事情で。何て言うか、面倒だったんだよね」


そう零せば新しいクラスメイトが怪訝な顔をしたのを視界の端で捉えた。

名前が転校までした理由など突き詰めれば「面倒」の一言に尽きる。
中学から数えて三年。勝手に巻き込んで拒絶や拒否を示しても否応なしに関わってくる彼らをそう思わなかったことなど一度もない。
一応、名前も友人として認めた人達がいるから妥協していたのだが……あぁ、それが増長させる原因だったかもしれない。

過去初代しかいなかったリングの適合者にして戦力として上位の実力。
敵に回せば厄介と察していながら手放せるはずがないと理解はできるが、名前からすれば関係ないとぶった切りたい話だった。


「……ここまででいい。もう近くだし大丈夫」

「あ……」

「ついでとはいえ、悪かったね。じゃ、また明日」


何か言いたげだったのは気付いていたけど、名前はそんな素振りもなく背を向けて歩き去る。

友人の山本が興奮気味に話してたのを覚えてたから送って行くという言葉にはっきりと拒否しなかった。
少なからず関心があり、だからこそこれ以上巻き込む気にもなれない。

彼、成宮鳴は表の人間だ。
前途洋々な普通とは言い難いが一般人の範囲を出ない少年だから。


「……で、何の用」


人気のない路地まで来た名前が足を止めて振り返る。
あくまでも無表情ではあるが、声は低く面倒そうな雰囲気は隠し切れていなかった。……もしくは隠す気などなかったか。

その声に応えるように現れた二人の男は黒いスーツを身に纏い、どこか俗世とは異なる空気を孕んでいる。


「名字名前様ですね」

「私共はボンゴレの者です。雪の守護者でもある貴女に考えを改めて頂けないかと思い、やって来ました」


殺気はない。敵意もない。
だがそっちの方がマシだったと思いながら溜め息を零した。


「わざわざ転校先を調べてまでご苦労だこと。こっちとしては迷惑でしかないけど」

「そう仰らずに。貴女としても悪い話ではないと思うのですが」

「それはアンタらの主観でしょ。私としてはただの迷惑、面倒でしかないわけ。本当、いい加減しつこいっての」


雪のボンゴレリングに選ばれたからという理由で守護者に縛り付けられるなど冗談じゃない。
それはボスであるツナにも9代目にも伝えてあくまでただの所持者だと認められているが、納得できない者がいるのも事実で。

力づくで追い払ってしまえば早い話。
八つ当たりも兼ねての憂さ晴らしとして魅力的だけれども、それで諦めてくれるなら始めから面倒だとも思わない。
しかも人気のないとはいえ都会のど真ん中。全く人目がないとは言い切れないのに派手なことはできなかった。

さて、どうしたものか。
隠し持つロッドに手を添えながら見据える名前に……


「――こっちッ」

「「!!」」


突如として飛び込んで来た人影が名前の腕を引き、走り出す。

逆らうことこそ簡単だったが、名前は腕引く人物を見てこのまま任せた方が良いと判断を下した。
たとえ関わらせる気はないと思った相手だとしても。


「……っ」

「っはぁはぁ……」


容易く撒けれるほどマフィアの構成員は劣ってはないが、地の利があった分優位に働いたらしい。
しばらく後を追う気配が付いて回ったものの、いくつも角を曲がって走る内に消えていた。
引っ越して来たばかりの名前には難しい芸当だっただろう。

現役運動部員にとっては大した運動ではなかっただろうに息が上がっているのは緊張していたからか。
名前をあの場から連れ出してくれた成宮は、息を整えると腕を掴んだままということも忘れて「大丈夫!?」と名前を振り返って声を張り上げる。


「何あいつら!?もしかして面倒ってあいつらのこと!?転校先にも付いて来るとかストーカー!?警察に行った方がいいよ!」

「スト……っ」

「え?……えっ!?」


事情を知らないのだから当然だが、選りに選ってストーカーとは。
そう思われたのだとあのマフィア達が知ればどんな反応をするだろう。
考えれば考えるほど可笑しくなってしまう。

緊張が解けた安堵と心配から意気込んで言ったはいいが、なぜか言われた方が笑いを堪えるという始末。
困惑して名前を見ていればついに耐え切れずに笑いを零し始め、徐々に成宮の頬が赤く染まっていく。

笑われたことによる羞恥か。
赤面する理由に自分の笑みに見惚れたからだと思い付かない辺り鋭いのに鈍感だと言われる所以なのだが、名前はなんとか笑いを収めて成宮に向き直った。


「笑って悪かったね。……さっき奴らは確かに面倒の理由だけど、ストーカーではないよ。前々からとあることに勧誘されててしつこいだけ。まぁ、私もここまで来るとは思ってなかったけど……警察に訴えたところで何も変わらないしね」

「でも……」


警察に訴える選択は始めからない。
相手はイタリアンマフィアなのだから太刀打ちできるとは思えなかったし、話したところで信じてもらえるとも思えなかった。

それでも納得していない成宮だが、名前が掴んだままの手に触れれば今気付いたように慌てて放す。


「ご、ごめん!」

「別にいい。アンタが引っ張ってくれたから抜け出せたようなものだし。それより次の試合っていつ?」

「へ?」

「助けてくれたお礼。差し入れするから教えてよ」


只事ではないと気付いてただろうに自分から飛び込んで来た成宮。
もちろん今だって巻き込む気はないけれど、彼という人間に関わってみたかった。

口元を緩ませて尋ねる名前に我に返った成宮が嬉々として答える。

大した理由もなく選んだ学校だったけど、ここでなら普通の学生らしい生活が送れるかもしれない。
その日々の傍らに彼の姿があるのも楽しそうだと名前は思って笑みを浮かばせていた。




――――――

540000キリ番を踏んだ未来さんリクエスト夢でした。

とにかく長かった……。予想以上に長くなってしまいました。
「傍観者」×ダイヤのAの組み合わせは考えてなかったので一から設定を練ってみたのですが、取り敢えず成宮メインの稲実だけ出演にしてみました。
マフィア関連を加えてたら青道陣を出す余裕がなかったです……。
多分このままメディア露出の多い成宮と一緒にいれば、夢主の方も知名度が全国的になってボンゴレも諦めざるを得なくなると思われます。さすがに有名人がマフィアにはなれないですし。
夢主的にはボンゴレから解放されても目立ちまくりじゃどっちもどっちな気がしないでもないですが。

改めましてリクエストを頂いてから時間がかかってしまい申し訳ありませんでした。
お待たせした分、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。




叶亜