※虹の呪い編





珍しい客もあったものだ。
放課後、授業が終わるや否や学校を出た名前を追いかけて来たらしい人物を前にして思う。

いつも両隣りを固める二人がいなければあの家庭教師もいない。
雲雀やクロームからの情報を元に考えればいないのも可笑しくない状況だが、普段から自分に近寄って来ようともしない相手が一人で来たのだから疑問を感じても仕方ないだろう。

ただまぁ、面倒事を運んできたことには変わりなく、唯一の救いは相手の目に宿る覚悟を決めた眼差しに多少の好感は持てる点か。


「何、沢田。チームとやらの件ならアンタの父親や家庭教師から聞いてるけど受ける気ないから」

「それはもう、いいんです。確かに名字さんが一緒に戦ってくれたら心強いですけど、俺達の都合で無理矢理巻き込むのは違うと思うから……」


もう十分、無理矢理巻き込まれてる気がするも名前は指摘はしなかった。

貴重な戦力だと認識しつつ、それでも名前の意思を尊重する。
上に立つ者としては利用できるものは利用すべき冷酷さは必要なのかもしれないが、名前には関係ないので放っておいた。


「じゃ、何の用?アンタがマフィア絡み以外で私に用があるとは思えないんだけど」

「マフィア絡み……じゃないとは言えないんですが、協力してほしいことがあるんです」

「協力、ね。まぁ、聞くだけ聞こうか。するかどうかはその後で決めるから」


名前がツナにできる最大限の譲歩。
それがわかっているからか、ツナは「ありがとうございます」と返してから真剣な面持ちで話を始める。


「実はーー……」











「だが、彼女はどうするんだい?雪の姫君……マフィアと関与することを拒む彼女が協力してくれるとは思えないな」


アルコバレーノという人柱の代わりにツナが提案したおしゃぶりに炎を注ぎ込む方法。
雪は夜の炎同様、おしゃぶりは存在しないが、大空の八属性に含まれている以上は必要不可欠であった。
そしてその唯一の属性持ちの名前はマフィア絡みを厭うている。

チェッカーフェイス、川平はそのことを指摘し、いくらバミューダ達も同意しようと実現は無理だと言っていた。


「名字さんは受け入れてくれました」

「!」

「まぁ、条件付きだけどね」

「名前!」


どこからともなく現れた名前がツナの言葉を肯定するとクロームが嬉しそうな声を上げる。
川平が怪訝な目を向ければ、その場全員の視線を奪っていた名前が肩を竦めた。


「正直、クロームの頼みと沢田の交換条件がなければ受けるつもりもなかったよ」

「条件ですか。差し支えなければ訊いても?」

「大したことじゃない。今後一切、ボンゴレの都合で私を巻き込まないって誓約書を沢田に書いてもらっただけ」


元々9代目の言質は取っていたし、それを正式な書面に起こしただけの話。
ただし、口約束と正式な書類に基づいた誓約ではその扱いは雲泥の差。名前を手放すことを嫌がったリボーン達が裏で働きかけるのもできないということ。

とはいえ、すでにボンゴレリングも手にして裏社会に足を突っ込んでる状態で完全に切り離すことは難しい。
それは名前も諦めていて、ボンゴレが名前の力を必要とした時は取引の内容如何によっては受け入れても構わないということだ。

完全に関わりを絶ったわけではないーーだが、リボーンを始めとした一部が苦虫を潰したような表情をしてる辺り、その誓約の厄介さを理解しているのだろう。


「あぁ、そうだ。どうせだからアンタと復讐者、二人にもサインしてもらおうか。その方が確実だし」


どうやら容赦するつもりは欠片もないらしい。
念押しする名前に苦笑を零しつつ、誓約書の署名に加えられた二つの名前。


「これで撤回は無理だし、問題ないかな。……いいんでしょ?沢田」

「はい。名字さんが敵にならないことも場合によっては手を貸してくれることも誓約書の中にありますし……これで協力してくれるんですよね?」

「そこまでさせといて反故なんかしないっての。……じゃ、とっとと始めようか」


元々虹に銀は存在しない。
燃え上がる色取り取りの中で異色でありながら、美しく輝く銀色の炎。

異端でありながらも弾かれることのないその色は、儚げに光り輝きながらも確かな存在感を持って虹と共にあり続けていたのだった。




――――――

500000キリ番を踏んだ玲奈さんリクエスト夢でした。

「傍観者」で虹の呪い編……ということでリクエスト内容に沿いつつ、夢主ならこんな感じかなと考えながら書かせて頂きました。
本編で書かなかった理由の一つですが、多分この夢主なら虹の代理戦争には関わって来ないと思うんですよね。いくら親友や恋人が参加しようとも基本的に興味がないので。
なので番外編で書くとしたら最後のアルコバレーノのために炎を注入する辺りだと考えていたので書けてよかったです。
もうちょっとクロームを出したかったのですが、その分なぜかツナが目立ってしまったという……なぜでしょうか……。




叶亜