※「傍観者」シリーズお嬢様夢主設定
※数十年後、息子:征(ユキ)有





「母さん」

「おかえり、征」


玄関をくぐってすぐに飛び込んできた青に声をかけると、母親であるその人は深海を彷彿とさせる髪を揺らして振り返った。

無表情さが相俟って人形じみた美貌だが、とてもじゃないが中学生の子持ちであるとは見えない。
その人の血を引いている息子でありながら征はいつも綺麗な人だと思う。

赤司名前。旧姓、名字名前。
赤司財閥当主の妻であり、名だたる家に生まれた一人娘。
才色兼備といっても過言ではないほどで、だがそれを鼻にかけることのない淡々とした性格で財界でも憧れの的になっているらしい。


「ただいま。……誰か来てるの?」


見覚えのない靴が玄関に並んでいるのを見つけて問うと、名前が答えるよりも先にその本人が顔を出した。


「久しぶりね、ユキちゃん。お邪魔してるわ」

「玲央さん、お久しぶりです」

「あら、少し見ない間に大きくなったわね。ますます征ちゃんに似てきたんじゃないかしら」


両親の高校の先輩だという彼は、親しかった後輩の子である征も会う度に可愛がってくれている。

三人が連れ添ってリビングに行くとお茶を淹れ直そうと名前がキッチンへと向かった。
それぐらい自分がやると申し出たが、あっさりと断り座っているよう促される。


「こっちはいいから実渕さんの相手してて。大した手間じゃないし」

「わかった」


対面のソファに腰を下ろすと、実渕がどこか懐かしそうに目を細めているのに気付いた。
過去を思い返すような、微笑ましい様子を見守るその目。

征が少し首を傾げながら見返せば、実渕はにこりと笑って口を開いた。


「確かユキちゃんは今二年生よね?もう高校はどこにするか決めてるの?」

「確定ではないですけど……洛山にしようかなと」

「やっぱりそれって征ちゃんと名前ちゃんの出身校だから?中学に帝光を選んだのもユキちゃんの希望でって聞いたわ」

「……それもあります」


両親どちらに似てたとしても優秀である赤司家の長子は、期待を裏切ることなく天才に分類される少年だった。

成績優秀で常にトップを維持し、バスケでは入学してすぐ一軍・レギュラーを勝ち取った。
生徒・教師共に一目置かれる存在である征は三年生に進級する前から全国様々な高校から声をかけられている。


「ただ興味があるんですよ、父さんと母さんが過ごしたという場所に。二人がどんなところでどんなふうに過ごしてたのか見てみたくて」


白い制服に身を包み、父親と同じ赤い髪を有した少年はまっすぐに前を見据えて言った。

その目は凛々しく堂々としていてどことなく既視感を実渕に抱かせる。
疑問に思うもすぐにそれは解消された。

新しい紅茶のカップ三つとお茶請けのお菓子を運んできた名前がテーブルに置いていく。


「ユキちゃん、征ちゃんにそっくりだと言ったけど……名前ちゃんにもよく似てるわ」

「そう?あんまり似てるって言われたことないな。征十郎にそっくりだとは腐るほど聞いたけど」

「えぇ、特に目がね。色もそうだけど、意志の強そうな目つきとか名前ちゃんそっくりよ」


二人が並べばそれははっきりとよくわかった。

意志の強い光を宿した青は、知的に輝き凛々しさを増す。
学生時代、童顔気味だった赤司よりも大人びて見えるのは名前の瞳を受け継いだからだろう。


「まぁ、親子だしね。……あぁ、そうだ。この後用がないなら夕飯でも一緒にどう?ちょうど今日キセキの奴らがうちに集まることになってるんだけど」

「楽しそうね。構わないのならぜひ参加させてちょうだい」

「わかった。征十郎にも伝えとくよ」


早速携帯で連絡を取る名前を横目に、実渕が征に問いかけた。


「相変わらず仲良いわね。キセキの子達とよく会うの?」

「月一ぐらいですかね。仕事で来れない人もいますけど大体は揃いますよ。……多分、半分くらいは母さんに会いに来てるんでしょうけど」


恋心とは違うが、キセキのメンバーが名前に向ける目に、友人の妻に向けるものとは異なる感情が混じっていることに気付いていた。
赤司から奪うなんて大それたことをする気もないが、想うことをやめようともしていない。

息子としては複雑な気持ちもするが、それだけ母親がすごい人なのだと納得もしていた。


「名前ちゃんは……相変わらず気付いてないみたいね。そこが名前ちゃんのいいところでもあるんだけど」


夫と携帯で会話をする名前に、二人は小声で言葉を交わして苦笑を浮かべる。

学生の頃から変わらず無自覚鈍感な名前にきっと赤司は苦労することだろう。
まさか結婚してからも振り回されることになるとは思っていなかったに違いない。

数時間後、赤司家にカラフルで賑やかな人達が集合してくる。
笑い声が絶えず響き、それは時が移ろうことになっても途絶えることはなかった。




――――――

370000番を踏んだ沙羅さんリクエスト夢でした。

息子は外見はほぼ赤司似(瞳は夢主)で内面は夢主寄りをイメージしました。
名前に関してはとても悩んだのですが、取り敢えず『征』という字を使いたいなぁと思っていたら『ユキ』とも読むことを知り、夢主とも無関係な響きじゃないし!と即決。悩んだ割にあっさりと決まりました。
リクエストでは何人かが会いに来る話とあったのですが、思いの外夜叉さんで枠を取ってしまったので赤司を含めたキセキは名前のみの登場となりました……すみません。
本編・シリーズ通して夢主の子供を出したのは初めてだったので考えていて楽しかったです。

改めまして二度目のキリ番おめでとうございます。
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。




叶亜