翌日。ユウキは泊めてくれたお礼に奈々に頼んで朝食の準備を手伝わせて貰い、綱吉と同時に家を出た。朝の匂いが気持ち良い。近くの公園に入りベンチに座ってぼんやりと宙を眺める。道路から死角になってるのをいい事にロアも出している。

「(あーあ、結局一日戻んなかったよ。お茶する前でポーチ外してたからロアしかいないし。皆心配してるだろうし、早いとこセレビィかディアルガに戻らせないと。恭弥も怒ってるだろうなー約束破ったし)」

そんな事を考えているとジャリ、という音が聞こえて意識を戻すと目の前に雲雀そっくりの少年がいた(学ランに黒髪…真っ黒だね)。時間を見ると大分経っていて。学校は良いのか…?と思いつつ黙って凝視している彼から目を外しロアを撫でる。

―――ビュッ キイイン!!
<グルル…(何をする)>
「ワオ…やるね」

鎌とトンファーが競り合ってギリギリと音を立てている。少年は強く未知の生き物に笑い、ロアは主に攻撃を仕掛けた敵に表立って殺気は出していないものの眼は鋭い。もう片方の手にもトンファーを持った少年を見て、ユウキはロアに弾いて、と指示を出しある程度飛ばさせた間に立ち上がる(座ったままだと動けないからね)。

「で、いきなり何?」
「貴方、昨日並中に侵入したでしょ。風紀を乱したんだから咬み殺さないとね」
「(この波導にトンファー、“咬み殺す”か。噂をすれば何とやら)したくてした訳じゃない」
「関係無いよ」

ヒュンヒュンと襲い掛かって来るトンファーを全て紙一重で避ける(眠いし面倒だったんだよ)。…それにしても当然っちゃ当然だけど十年前は弱いな。規格外に強い中学生相手にそんな事を思っている。

「(んー…)攻撃は大振り、足元がお留守、隙が多いよ」 ―――ドスッ!!
「ぐッ…!?」
「終わり。……ロア、さっきはありがと。戻って」

膝を着いてる少年を横目にユウキはロアを撫でボールに戻す。そしてさっさと立ち去ろうと少年の横をすり抜け……なかった。少年が手首を掴んでいたのだ。多少回復したのか既に立ち上がっている、そこまでは良い。けどデジャヴ感半端無いこの状況は何だろう……。


「面白いね貴方達。気に入ったよ」
「(…いや、まあ“化け物”扱いよりはマシだけど)嬉しくない。つーか学ラン君、離してくれない?」
「恭弥だよ。雲雀恭弥」
「(聞けよ)ああそう。離せ“坊や”」

瞬間、トンファーが繰り出される。流石に“坊や”呼びは不味かった様だ。強く掴まれながら避けるのは少し難しい。だからと言って戻したばかりのロアをまた出すのは気が引ける。例え少年――基雲雀の殺気に反応してボールが揺れていたとしても。

―――ガキン!!
「…貴方、ふざけてるの?鉄扇を閉じたまま使うなんて」
「生憎と“これ”をあまり開いて使わないんだ」

開くと殺傷能力は上がるが“殺さない”戦い、所謂“喧嘩”にそれは必要ない。空気抵抗とか力の分散とか有るから開いてもなあ…とユウキは考えている。じゃあ何故鉄扇なのか。それはただ単に手に馴染む調度良い武器が無かったからである。鉄扇を握った時は「あ、これなら凶器所持者に家族とか素手で対応しなくて済むんじゃね?殺傷能力も低いし」という何とも軽いノリである。

話を戻そう。トンファーと20cmちょっとの鉄棒が競り合い、片手は拘束し、拘束されている。流石に痛くなってきたのでユウキは雲雀の腹に蹴りを繰り出すが、手を離して避けられる。両手に得物を持ち嬉々として襲い掛かってくる雲雀の攻撃をかわし、いなす。鋭く来た金属を防ぎ、弾くと同時に距離を取った。そしてさっさと鉄扇を仕舞うと訝しげな、不満そうな目と合った。

「どういうつもり」
「飽きた。帰る」
「僕は飽きてないし帰らせない」
「(出口は坊や側か……仕方ない)最後の攻撃は良かったよ、思わず防ぐ位にはね」
「!」
「じゃあね“坊や”。ロア、“テレポート”」

ボールを軽く叩きロアが飛び出すととユウキはその場から一瞬で消えた。公園に残された雲雀は一人立ち尽くす。その顔は酷く不機嫌そうだった。

  〜Hibariside〜

「……むかつく」

未知の生き物を従えた女。ロア、と呼ばれていたあの生き物も興味がそそられるが、生き物だけでなく彼女も強いのは予想外だった。僕の動きの弱点を指摘し、一撃で膝を着かせる攻撃をし、僕に対し笑みを浮かべて話す程の実力者。そう笑っていたのだ。去る直前の褒め言葉、その時の表情はまるで指導者が教え子の成長を喜んでいる様に見えて、でもロアに向けていた表情と少し似ていた。教え子じゃないし名乗ったのに“坊や”呼びが酷く気に入らない。……がここでふと自分が薄く笑っているのに気付いた。

「また会いたいな」

群れているのに強い。一回も彼女に攻撃が当たらなかった。あの笑みも気に入らないけど不快ではなかった。矛盾しているな、と思いつつそういえば名前を知らない事に気付く。僕は名乗ったのに向こうは名乗らないなんて許せないな。

「今度は絶対に咬み殺す」

静かに消えた彼女に宣言し、見回りを再開した。

  〜Yourside〜

一瞬視界が白く染まり次に見えたのは並盛神社。公園から離れるだけでなく人が滅多に来ない場所を選んでくれたロアには感謝だ。

「ロア、有難う。今日は助けて貰ってばっかだね」
≪俺はお前を“家族”であると同時に“唯一の主”だと決めた。“望まないチカラ”も“望んで得た強さ”もユウキと守るべき家族の為に使うと“己に”誓った。気にする事は無い≫
「うん」

ロアはソラとアルトの次に私と生きている古株。十何年も一緒に居ればお互いの事は理解しているのは当然。施設を潰し何人も殺した私と“家族”として生きると決めたのは彼自身だし、認めたのは私自身。此方では流石にそうはいかないが向こうでの行動は自由だった。

“自由”に生きるし生きさせる。他に縛られないし、しない。ロアのその“誓い”が“私に”なら容赦無く鉄槌を下しただろう。彼もそれを分かっていて“己に”と言った。

≪…迎えが来た様だな≫
「あ、ホントだ」

何も無い空間が波紋状に輝き、開く。出て来たのは森の神と呼ばれし薄緑の小さな生き物。

「セレビィ」
≪おっ久ー!迎えに来たよ!≫
「軽い……」
≪言ってやるな。可哀相だ≫
≪ちょっ酷くない!?≫

ええぇ、セレビィってこんな奴だったの?人懐こい純粋な奴だと思ってたのに…。当たって無いが間違いでも無い。

「取り敢えず十年後に家族がいるから送ってくれない?」
≪勿論!昔助けてくれたし(……巻き込んだお詫びもあるしね)≫
「忘れたね、そんな事」 ≪ふっ……≫
≪!アハ、アハハッ、じゃあ行くよ!≫

“ねんりき”で浮いた体はそのまま光の空間に入り、私達の意識は途切れた。



「………ん」
「ユウキ!ユウキ!オハヨ!オハヨ!」
「ん〜?おー、おはよヒバード」

視界に映る木目の天井に黄色いふわふわ。眼だけ動かして観察するとロアもボールに戻って寝てるしポーチも枕元にある。あれ、飛ばされる直前ってサワダさんの私室じゃなかったっけ。どうやらまだ寝惚けてて頭が働いてないらしい。これを恭弥が見たらどうなるだろう。


親友と、十年…?

(ああ、起きたの)
(坊やが大きくなってる……)
(…咬み殺す)
A.大惨事を生み出す。

<補足…?>
   ロアについて
・夢主が最初に潰した組織に居た。普通のより大きい
・凡そアブソルが使えない技を覚えさせられた。テレポートの他にもサイコキネシス、ドラゴンクロ―等が高威力で使えるチート
・普段は静かにキルアと保護者をしているが、夢主にはよく甘え、戦闘には容赦無い
<叶亜さんへ>
お久しぶりです……!!うわあ二つに分かれるまで書くとか短編じゃねえ← しかもまた複数に分ける事やらかすぞ絶対。そろそろ夢主にリングとか復活の戦闘させてやりたい。出来るかなあ浮気したり書きたいこと逸れそう(泣)。ええと読んで頂き有難うございました!!