イタリア某所。そこではユウキの他に人とポケモン達の影があった。

「―――じゃあ、大体こんな感じでいいかな?」
「ええ。最近皆、気が緩んでるし、びっくりしそうじゃない?」

ユウキとその人は悪戯っ子の様に、

<グウゥ…(びっくり所じゃないと思いますけど…)>
<フルル、フウ!(まあいいじゃんいいじゃん!)>

ポケモン達は呆れながらも楽しそうに笑う。さて、一体何があるのだろう――?



その日の夜、夜行性の虫や鳥が鳴き、風が木を揺らし、不気味な音を奏でる。黒服の男達はビビりながら屋敷に向かって森林内を歩いていた。

「…今回のボスの気紛れはまた突飛だな」
「いきなり『今から肝試しやるわよ。お菓子が入ったこの籠を屋敷の食堂の前にいる子に渡せば合格。武器と炎の使用は厳禁。じゃ、先行ってるから』…だもんな。最後ハートマークでも付いてそうだったし」

―――ビュウウ クスクス ガササッ

「……な、なぁ兄貴。今声みたいなの聞こえなかったか?」
「は、はあ?風の音だろ」
「…いや」

―――フフッ クスクス ムー?

現れたのは箒に乗って宙に浮いた魔女。真っ暗な森林内では良く分からないはずが、魔女の輪郭に沿って紫の光が淡く発され、禍々しい不気味なオーラも漏れている。魔女の帽子やローブはヒラヒラしていて胸元には赤い石があるのか光っていた。手が込んだ仮装だな、と言いたかった所だがそれには問題が有り過ぎた。光やオーラの事だけでなく、大きな帽子から覗く眼は紅く、白目の部分が黄色。何よりその魔女の足が―――無かった。

「「「うわああああああああああ!!?」」」

近づいて来る魔女に本能的に恐怖を感じて声を上げて走り出す。肝試し、彼女はそう言っていた。そして彼等は思う。マジで不気味だ、やりたくないと。



≪ああ、行っちゃった≫

まだ脅かし足りないのに、と魔女――“サイコウェーブ”で浮かばせた箒の上にいたムウマージ――は残念そうに呟く。

≪ま、いっか。お菓子も取れたし、ユウキの所に行ってくるね。ちゃんと映像送ってよ?――アルト≫
≪言われなくともやるさ、なかなか面白いしな≫

ムウマージには姿が見えないが、笑みを含んだ声と傍を通り過ぎた微かな風に、先程とは打って変わって楽しそうに食堂に向かう。そんなムウマージの手には籠に入っていたマカロンがあった。



―――「「「“ぎゃああああああああああ!!”」」」
「……っ、……っ、…っ!!!」
≪…ユウキ、笑い過ぎだよ≫
「強面の男達がこうまでビビってるのが心底面白いんだからしょうがない」
「…まあ、否定は出来ないわね」

笑う、否嗤いながら言い切るユウキに呆れてソラは溜息を吐き、アリアは苦笑を洩らす。食堂前で待機しているが暇、と言う事を肝試し計画中に気付いた二人は、ラティアスとラティオスがいるからこそ出来る“ゆめうつし”で彼等の行動を見ていた(二体共、面白いこと大好きなので即答で二つ返事である)。男達が屋敷の外にいた時は三人共大爆笑していたが、流石に中に入られたら声は自重した。声が漏れていたら漏れていたで不気味そうだが。

森の中ではムウマージのエリス、屋敷前ではダークライのナイト、屋敷内の雰囲気を不気味に変える為にゾロアークのミラージュ等々、ポケモン達メインで肝試しは行われていた。因みにさっきの悲鳴は廊下でシャンデラのシエラが“おにび”と共に現れた時のものである。

≪そろそろ〜到着するよ〜≫
「あ、お帰りシエラ。何を攫って来たの?」
≪ん〜?パンプキンクッキ〜≫
「じゃあ私は中に入ってるわ」
「あ、りょーかい、アリアさん。んじゃ私達は仕上げと行きますか」
≪≪おー!!≫≫



「や、やっと食堂だ…」
「こ、怖かったぁ…」
「情けねーぞ野猿。んで何処に人がいるんだ?」
「此処ですよγさん」
「「「うお!?」」」

食堂前に着いた途端、弱弱しい口調で喋る男達を窘めるγの背後に立っている#ユウキ#。声を掛けたらジッリョネロの男達は短い悲鳴を上げた。その様を見てユウキは意地の悪い笑みを浮かべる。

「息ピッタリで情けないリアクションをドーモアリガトウ。そしてγさん、Trick or Treat」
「あ?」
「Dolcetto o Scherzetto って言えば良かった?太猿さん」
「お、おお。ほらこの籠…………!!」
「何も入ってないぜ!?」
「「「なっ!?」」」

ユウキの辛辣な言葉に直ぐに理解出来なかったγの代わりに、短くも太猿が聞き返す。そして渡そうとしたのだが、籠が空になっていて野猿が思わず声を上げる。そしてまたも息ピッタリなリアクションを見てユウキは笑みを深めた。

それもそのはず、お菓子は脅かし役のポケモン達と中継を送ってくれたソラとアルトのお礼。此処に辿り着く時にはもうお菓子なんて入っていないのである。

その笑みを見た男達は顔を蒼褪める。その時のユウキの笑みはかなり凶悪なものに変っていた。

「へえ〜…ないんだ?それじゃあ―――悪戯だ!!」

高らかに叫ぶと同時にポケモン達が一斉に姿を現す。只でさえ今までの脅しとユウキの笑みで恐慌状態だった男達は完全にパニックに陥り逃げ出そうとする。が、ソラとアルトの“サイコキネシス”で動かない。もう駄目だ――とパニックを通り越して気絶する直前、

「っ……ふ、あっははは!!」

大爆笑が響いた。それが嘲笑うものではなく純粋に面白いのを見たという感じで、それと同時にミラージュのイリュージョンが解け見慣れた、温か味のある屋敷の廊下になる。思わず呆然とし、顔を上げるとユウキだけでなくポケモン達まで笑っていた。

「は〜…あー笑った笑った。私を見て肝試しのネタ分かると思ったけど大成功だったなあ」
「……おい、」
「あ、これアリアさんからの提案だから文句聞かないよ」
「チッ……ならユウキ、Dolcetto o Scherzetto だ」
「…ん?」
「ああTrick or Treat つった方が良かったか?」
「お菓子がねーなら悪戯だぜ!?」

先手を打たれγは思わず舌打ちするが、反撃を思い付いたのか先程の台詞を返す。思わず聞き返したユウキに脈有りと思ったのか太猿や野猿も便乗し、男達全員が笑みを浮かべていた。心では気持ち悪ッと思いながらもそんな事は億尾にも出さず笑顔を返した。人当たりのいい“届け屋”ショウの様な笑顔を浮かべ、食堂の扉を開けた。

「勿論 Happy Halloween だよ」

開けた先にあったのは豪華な食事と色取り取りの美味しそうなお菓子、そして柔らかな笑みを浮かべているアリア。

「さあ皆パーティー楽しんで!」

肝試しの緊張から抜け出していつもより騒がしさに拍車のかかったパーティーに、ユウキが早々に出て行ったのはお開き時に気付くのだった。


Gost Panic!!

(やほーユニ。Dolcetto o Scherzetto)
(あ、ユウキさん!ふふっこれどうぞ!)
(!パンプキンカップケーキじゃん、美味しそう。でも何で?)
(今日はハロウィーンだし、レティルが好物教えてくれました)(<ラルラル!>)

<補足>
・ジッリョネロは向こうに飛ばされて初めて関わった人達。アリアとユニは母と妹。
・ユニはγ達に会えないのでチビッ子組とお留守番。レティルはテレパス使えるし、ユニはユニで心が見えるので会話は特に問題は無い

<叶亜さんへ>
ハロウィーンと言う事で書いてみたんですが、結構難しいですね。と言うか書き始めて一週間弱で書き終わったのは初めてな様な……;;今回は書き終わっての自己嫌悪(文才なくて)は少ないです。やった!!夢主がスイッチ入ってたからですかね?そして叶亜さん、読者の皆さん、Happy Halloween!!