きっと始めから、何もかもが間違っていたのだろう。
それに気付いた時には疾うに手遅れで。
最も近いとさえ思っていた関係はいつからか冷めきって、絶対に届かない場所へと行ってしまっていた。
「どういうことだ!ツナに会えないどころか池袋に近付くことすらできないだと!!?」
ダンッと拳を叩きつけた机が鈍い音を立てて震え、乗っていた書類の一部が崩れるように落ちる。
落ちたその一枚一枚の紙はどれも重要書類であるにも関わらず、誰も慌てて拾おうなどとしなかった。
ただ、緊張と焦燥が混じった表情で部下達は家光に報告する。
「……粟楠会というジャパニーズマフィアをご存じでしょうか?」
「粟楠会?あぁ、確か池袋を拠点としている極道だろう。それがどうした?」
「その粟楠会が、我々が池袋に……彼女に関与することを許さないと」
「何だと!!?」
日本の極道とイタリアのマフィアでは規模は全然違う。
その気になれば壊滅に追い込むことだってできるだろう。
しかし、それを実行するには大義名分がなく、裏社会の政治を無駄に掻き回してしまう。
ただでさえ復讐者に目をつけられている状況なのに、そんなことでもしたら今度こそ問答無用で牢獄行き決定だった。
つまり、だ。それはもうボンゴレには名前が池袋から出て来ない限りは接触することができないことを示していた。
「そんな……どうして関係ない極道が関わってくるんだ!」
「それがどうも、情報屋の折原臨也が手を回したようで……」
例の決別の日に会った、まるで名前の騎士のように振る舞っていた情報屋を思い返す。
海外に手を伸ばしてないためイタリアでは無名に近いが、日本の裏社会ではそれなりに名の知れた情報屋。
そんな彼といつ名前が知り合ったのか定かではないけれど、絶対に敵に回していけない人物なのは確実だっただろう。もう手遅れだが。
「……親方様、」
「バジル?」
「拙者は、親方様のことを尊敬しています。それだけは今も昔も変わりません。ですが、どうして、あんなに穏やかでお優しい沢田殿を……ご自分の娘殿を信じてあげられなかったのですか!!」
「……ッ!!」
部下であり、弟子でもあるバジルが家光にこんなふうに糾弾したのは初めてだった。
けれど、そのことに対して誰も諌めることはできないし、家光自身も返す言葉を見つけることができなかった。
そして何よりも情けないのは、バジルに言われて初めて自分の子供が『綱吉』ではなく『名前』であったことを――娘であったことを思い出したのである。
***
「大変です、リボーンさん!]世が自殺を図り、一命を取り留めたものの重症です!!」
「またか!くそっ。あの女にはツナが戻ってくるまで死なれたら困るんだ。縛ってでもいいから絶対に死なすんじゃねーぞ!!」
青褪めた顔で部屋を飛び出して行った下っ端を見送り、リボーンは頭が痛いとばかりに眉間に皺を寄せて深く椅子に腰かけた。
『ダメツナ』だと思って内心見下していた子供が本当は女で、しかも目にしていた姿が仮初のものでしかないと知ったあの日。
あの日以来、ボンゴレは全てが狂ってしまった。
「せめてツナさえいりゃあボンゴレは元に……」
――本当にそうなのか?
その思いはリボーンの中で常に疑心として居続けていて、それを肯定するようにあの日の名前が何度もリピートされる。
心の籠っていない瞳。言葉の端々で感じ取れた嫌悪。
今の現状は、自分達の愚かさが招いた結果だ。
そのことを認めたくなくても、視線を逸らし続けても、心の奥底では気付いている。
気付いていても、何がいけなかったのか理解できていない彼はやはり愚か者としか言いようがなかった。
愚か者の懺悔録窓から見上げた空は曇っていて、いつまでもくすんだ大空だった。
――――――
沙羅さんリクエスト夢でした。
前回のに付け足して書くのは難しいと判断したので、続編という形で書かせてもらいました。
家光、リボーン視点で時期的には決別からそんなに時間は経っていないイメージです。
それぞれの部下達には一応見放されてはいないものの、一言申さずにはいられないような空気は常に漂っています。まぁ、自業自得ですが。
またキリ番を踏むようなことがありましたら、遠慮なくリクエストしてください。精一杯書かせて頂きますので!
叶亜