名前にとっての『親』という存在は、確かに沢田家光と沢田奈々の二人であった。
それは名前自身も認めている。

けれどそれは、イコール『父親』『母親』になるわけではない――というのが名前の持論だ。


「それで?最近、池袋の周りを飛び回っていた鬱陶しい“蠅”はどうなりました?」


池袋の隣り街、新宿を根城にする情報屋の家で寛ぎながら名前は部屋の主に問いかける。

臨也はその問いにくつりと喉を震わせ、パソコンに向けていた視線をソファに座る少女へと移した。
その表情は如何にも楽しげで、でもやっぱり微かな苛立ちが滲んでもいる。


「“駆除剤”は撒いたから安心していいよ。……なんて、元『父親』を羽虫扱いとは名前ちゃんもずいぶん酷いなぁ。シズちゃんの粗暴さが移っちゃったんじゃない?」

「門外顧問として、仕事の一環で来た人を『父親』と呼ぶ義理もないので。大体、笑ってる時点で臨也さんも人のこと言えませんよ」


あの日、あれだけ拒絶して絶縁状を突き付けたというのにかの門外顧問は諦めていないらしい。
この場合、門外顧問というよりもボンゴレは、と言い換えた方が正しいかもしれないがさして差がないので放っておく。

子供を無条件に愛し、慈しみ、ぬくもりを与えるのが父親や母親の役目だというのならば、家光と奈々はそれに当てはまらない。

幼い頃から男装を強要していた家光は父親の前に門外顧問として役割があり、奈々はそんな夫に大した説明もされなくても反対もせず受け入れていたのだから本当に子どもを大切にしたとは言えない。
そもそもちゃんとした親子関係が結ばれていたのならこんなことになるはずがないので、全てはこの状況が物語っていると言えよう。


「にしても失敗しましたね。こんなことになるなら俺に関わることも一切禁止しとけばよかった」

「本当だよねー。今回は名前ちゃんが超直感で気付いて俺が根回しできたからよかったけどさぁ」

「まぁ、ボンゴレもかなり追い込まれてるみたいですから焦るのもわかるんですけどね、俺が戻ればすべてが丸く収まるって思ってるとこが愚かというか……」


隠しきれず、浮かべた笑みは嘲りが含まれていた。
そこに家光への情は僅かもない。

不意にバイブレーションが響き、メールの受信を確認した臨也はにんまりと笑う。


「もう安心して大丈夫だよ、名前ちゃん。煩い蠅は、もう二度と君に近付くことができないから」























「い、いやぁああああああ!!」


銃声などが轟く抗争地に響き渡る一つの甲高い悲鳴。
あまりにも場違いな女の悲鳴に巻き込まれた一般人かと思われたが、その声の主を見やった瞬間誰もが放置することを選択した。

その人物こそがボンゴレを衰退させる原因となった張本人だったためで、本心では助けるこどころか抗争に関係なく痛めつけてやりたい相手である。
誰もが疎ましく思っていても姫宮以外に10代目になることはできず、さりとて苛立ちのままに手を上げることは9代目によって禁止されていた。
所詮は肩書きのみの10代目ボス。下手に相手するよりも無視を選んだのは正しいだろう。

そういうわけで普段はお飾り同然に扱われている姫宮だが、抗争が起きれば戦場へと無理矢理引きずり出されていた。
あわよくば、敵の手にかかってしまえばいいとでもいうように。


「も……こんなの嫌ぁ!!」


どんなに泣いて叫んでも、差し伸べてくれる手はなくて。
姫宮の脳裏には最後に見た名前の笑顔がちらついて離れることはなかった。






終焉の足音が聞こえるか






「これから死ぬほど大変な目に遭うだろうけど頑張ってね、ボンゴレ10代目さん?」


その言葉が、まるで呪いのように姫宮の頭の中をずっと巡り続けていた。




――――――

120000キリ番を踏んだ沙羅さんリクエスト夢でした。

果たしてリクエスト通りになっているでしょうか。
キャラが臨也しか登場せず、夢主と悪女が出張っているという……。
沙羅さんのみ書き直しを受け付けていますので遠慮なく言ってください。




叶亜