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「……それにしても、まさか大人になってまで交流があるとは予想してなかったなぁ」


いつだか来たケーキバイキング。
店も対面に座る相手も同じで、唯一違うのは互いの年齢だろうか。

以前と同じようにケーキを咀嚼する名前を眺めながら感慨深げに呟く。


「俺、正直言うと名前が来神を出たらそれっきりだと思ってたんだよね」

「アドレスだって交換してたんだからそれはないって。大体私は、並盛に帰っても普通に遊びに来る気満々だったし」


不思議そうに言う名前に臨也は苦笑を浮かばせることしかできなかった。

名前からすればそんな感覚だったのかもしれない。
でも臨也にとってはあれが永遠の別れのように感じていた。

結局は大人になった今でも名前が池袋にやってくる度に会うのでそんなことはないのだが。
正直言って、嬉しいんだかそうじゃないんだか複雑な心境ではある。


「そういえばさ、平和島は元気?いつもアンタとは連絡取ってるけど平和島の方は知らないんだよね」

「……いいじゃん、あんな化け物のことなんか気にしなくて」

「そりゃアンタにとっては気にする必要もないのかもだけど、来神でよく話をした人の一人だからね。気にしたって構わないでしょ」

「……だったら、俺じゃなくてシズちゃんを誘えばよかったんじゃないの。アイツだったらケーキだって喜んで食っただろうし」


若干不機嫌に苛立ちを見せながら吐き捨てれば、名前は「はぁ?」と眉をしかめて言い放った。


「何でアンタに会いに来てるのに平和島を誘わなきゃいけないわけ?」

「…………え?」

「何、その顔。まさかとは思うけど、毎回毎回池袋に来る度にアンタを誘ってるのはケーキのためだとか思ってたわけじゃないよね?」


そのまさかだったりするため臨也は思わず息を呑んだ。

だってそうだろう。
名前と過ごした時間はたった1ヶ月で、静雄の喧嘩に巻き込ませて危険な目に遭わせようとしたことだってある。
それなのに自分が名前の内側に入れるわけがないと思っていた。

臨也はテーブルの下で拳を握り締め、表面上はさり気なくずっと思っていた話を切り出す。


「……ねぇ、もし俺が彼より先に君に出会っていたら……名前は、俺を好きになっていたかな?」


名前は少しだけ青い瞳を見開いた。

鈍感とはいっても、さすがの名前もあの時臨也の想いに気付いたはず。
気付いても何も言わず、触れもしなかったのは答えを求められていないと知っていたからだ。

平心を装う目の前の男を一瞥して名前は「そうかもね」と呟いた。
それに臨也が何か思うよりも先に「でも、」と言葉が続く。


「もし二人同時に出会ってたら、私は恭弥を選んでたよ」

「……そっか、」


薄く向けられた笑みに臨也も微笑んだ。

この想いはしばらくの間は心の中に居座るだろう。
でも、きっといつかは消えていく。まるで泡雪のように。


「結婚、おめでとう」


ようやく言えた祝福の言葉に、名前の薬指に填まっていた指輪がきらりと輝いた。




fin.