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夕陽が射し入る教室が仄赤く染まる。
窓枠に腰掛けて夕陽に照らされる横顔は凛としていて、まるで一枚画のよう。

外を見ていても気配には気付いていたのか、臨也が声をかけても名前は驚いた顔をしなかった。


「もう帰ったのかと思ってたよ」

「これでこの学校も見納めだからね。ギリギリまでいようかなと」

「へぇ……」


卒業までの残り約1年の中に名前はいない。
よく一緒にいたせいかこれからも一緒にいれるような気がして、来週からは隣りの席が空席になるのが不思議に感じてしまう。

結局名前は、最初から最後まで自由だった。

人を魅了するだけして振り回しといて、そのくせ触れることは許さない。
しかもその自覚がないのだから性質が悪かった。


「それで、短期の転入期間はどうだった?」

「まぁ、楽しかったよ。私が望んだ普通の学校生活とは言い難かったけど……それでも十分楽しかった。あいつの反対を押し切ってまでも来た価値はあったね」


1ヶ月のほとんどを側で過ごしてきた臨也にとってその評価は嬉しい。
けれど、素直に喜ぶこともできないのも事実。

片手で数えれるほどしか見たことがなかった名前の笑顔にも言葉を返すことができず、臨也はぎゅっと拳を握りしめて無理矢理笑顔を貼り付ける。


「……ねぇ、ちょっと目瞑ってよ」

「は?何で」

「いいから、いいから。ほら、別れの餞別あげたいだけだから気にしないで目を瞑ってよ」


訝しげに臨也の表情を眺めていたが、絶対に折れないと悟った名前は渋々瞼を閉じた。

……思い返すのは、出会った日の屋上でのこと。
あの時はからかい半分に迫ったつもりだったけど、今となってはそれだけが後悔だ。
本当にしてしまえば嫌われてたかもしれないが、どうせ叶わない想いならばどちらも同じだろう。

そこまで考えて臨也は名前の顔に手を伸ばす。
近くで見た名前の顔は相変わらず整っていて、そして無防備で。


「……、」


ぴたりと、指先が肌に触れる寸前で止まる。
思わず苦笑が浮かんだ。


「……これぐらいは許してよね」

「折原?何を――」


頬。それも限りなく唇に近い場所に口づけを落とす。

至近距離で見た、名前の見開いた青い瞳はやはり綺麗だった。


「ばいばい、名前」