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『で、いつ帰ってくるの?』
耳元の携帯から繰り返し聞こえてくる恋人の不機嫌な声に、名前は幾度目かの溜め息を吐いた。
朝・昼・夜と最低三度はかかってくる電話。
転校したばかりの頃は毎時だったことを考えれば改善された方だが(名前が総無視した結果ともいえる)回数が多いことには変わりはない。
用があるならまだしも、理由が声が聞きたいだとか催促のためだから呆れる。
名前が淡泊すぎるのか、雲雀が心配性……というよりも独占欲が強すぎるのか。
男女での温度差がありすぎてこれでも恋人同士だというのだから不思議なものであった。
「だから、あと一週間もすれば交換学生期間も終わってそっちに帰るから。お土産何がいい?いけふくろうの人形でも買っていこうか?」
『……いらないし、フクロウって僕に喧嘩売ってるわけ?』
……そういえば、六道は霧フクロウを使っていたっけ。
言葉の選択を間違ったことを悟った名前は頭をフル回転させて別の話題に変えようとして、ふと視界に入った時計が指す時間はあと少しで昼休みが終わることを示していて。
ちょうどいいやとそれを理由に電話を無理矢理終了させた。
「電話の相手って彼氏?」
「そ、帰ってこいって煩くてね。てか、もう昼休み終わるのに折原も何で屋上に?次の授業サボんの?」
「……君を捜してたんだよ」
「私を?」
キョトンとさせた名前の前に徐に差し出された二枚のチケット。
有名どころのケーキ店の名前が入ったそれには『バイキング無料』と書かれていた。
「甘い物平気だったよね?今日の放課後、一緒に行こうよ」
「構わないけど……いいの?どうせそれ、女の子から貰ったんでしょ?」
「俺が貰ったものなんだから誰と行こうが俺の勝手だろ。じゃ、放課後は俺とデートで決定だから。忘れないでちゃんと待っててよ」
名前が口を挟む隙も与えず一方的に言い切った臨也は、ひらひらと手を振って先に屋上を出て行く。
昼休み終了のチャイムと同時にどこから聞こえてくる怒声と破壊音。
……あぁ、なるほど。それで“待ってて”なのか。
いつものことかと割り切って臨也に続けて屋上を後にする名前。
さり気なく『デート』と言われたことは幸か不幸か、名前の頭から抜け落ちていた。