09



「シズちゃんのせいで喧嘩に巻き込まれて怪我しそうになったんだって?」


心配そうに、しかしどこか含みのあるような笑みを浮かべながら臨也は邂逅一番に言う。

何で知ってるのかだとか、名前の頭に疑問が渦巻いたがそれも一瞬。
回転の速い名前の頭脳はすぐに答えを導き出し、「だから?」と素っ気なく答えた。


「まぁ、名前が怪我しなくてよかったよ。あの化け物のせいで大怪我した奴なんてたくさんいるからねぇ」

「……折原はさ、」

「ん?」

「私に怪我をさせたかったの?それとも平和島を孤立させたいわけ?」


視線と同じく鋭い指摘に臨也は表情を固くさせる。
だがそれは僅かのことで、すぐさま取り繕って笑いかけた。


「嫌だなぁ。俺が仕組んだって疑ってる?」

「ごまかさなくていいよ、意味ないから。……大体、タイミングが良すぎるんだよね」


あまりの無謀さに違和感があったのもそうだが、名前が一緒にいる時に、しかも普段静雄が通ることはない寮の近くで鉢会うなど偶然にしてはできすぎているだろう。
しかもナイフや鈍器を手にした準備万端の状態だ。

それだけでも疑う余地があり、極め付けはあの言葉。



「聞いてねぇぞ、こんなことは……!!」



“聞いてない”。……誰から?
その時点で名前は裏で操っている奴がいることを確信していた。
それが臨也だと思ったのはわざわざ話題を出してきたことを考えればそうだろうと。


「別に否定するならいいけどさ、私に不良とかけしかけても無意味だってことは言っとくよ。並盛(あっち)で喧嘩沙汰なんてしょっちゅうだし」

「……」

「平和島に関しては……まぁ、私からは何するつもりもないけど。会えば話ぐらいするだろうし、避けるつもりもない」


淡々と言って臨也の横を過ぎていく。
喧嘩に巻き込むよう仕向けた臨也に対して文句の一つも言わずに。

その場に残された臨也は名前を追いかけるわけでもなく、ただその背中を見つめて拳を握りしめた。