07
短期転入ということで来神高校に通っている間は、学校側が用意してくれた寮に住むことになっている名前。
学校から徒歩3分そこらで着く寮はまだ新しく、またスーパーやコンビニに近くて予想していたよりもずっと便利だった。
事前に申請しておけば朝・昼・夕と食事を用意してもらえるのだが、元々一人暮らしをしていた名前は今更な気がして自分で作っていた。
「お前確か、ノミ蟲と屋上にいた……」
「どうも」
砂埃だらけの制服を着ている金髪――平和島静雄に名前は一声だけの挨拶を返す。
一瞬、『ノミ蟲』って?と疑問が浮かんだけれど屋上でのことを思い返せば該当者は一人しかいない。
静雄の眉間に皺が寄り、訝しげに名前を見返す。
本人にはそのつもりがないのだろうが、生まれながらの目つきの悪さと相まって睨んでいるようにも見えた。
まぁ、それに怯む名前ではないので問題はない。
「こんな時間に何してんだ」
「買い物だけど。生憎、夕飯の材料を切らしてたの忘れててね」
「……一人暮らしなのか?」
「一人暮らしってか寮。こっちにいる間は学校側が用意した寮に暮らすことになってんの」
そこで静雄はようやく名前が並盛から来た短期転入生だと気付いたらしい。
酷く驚いたように名前の並高の制服を眺めた。しかし途中でハッと我に返る。
「あー、悪ぃ。自己紹介がまだだったよな。俺は平和島静雄だ」
「名字名前」
「名字な。買い物ってそこのスーパーでいいのか?時間も遅ぇし、付き合ってやるよ」
突然の申し出に思わずきょとんとする名前。
厳つい見た目とは裏腹な性格をしてそうだとは予想していたが、ほぼ初対面の相手に気遣えるところ見る限り、短気さえ抜かせば歪んでいる臨也よりずっとマシな気がした。
人外とも言える力を有すが優しい静雄と身体能力は人間だけれど性格は最悪な臨也。
犬猿の仲というのも納得できるような正反対の二人である。
そんな感心とも取れることを思いながら、荷物が重くなるだろうと考えていた名前は素直に静雄の申し出を受けた。
「……名字ってよ、ノミ蟲の野郎と仲良いのか?」
野菜を選んでいるとふと静雄が問う。
仲が良いのか問われると正直なところ名前もよくわからなかった。
自分も大概な性格をしていると自覚はしているが、臨也の性格も規格外のため何とも言えないのが実情で。
来神高校で一番話しはするけれど、それを仲が良いと取っていいのか微妙だ。
「さぁ、としか答えられないな。隣りの席だから割と話はするぐらいではあるけど」
「そうか。……あの野郎には気を付けろよ。他人を駒にか思ってねぇからな。油断してっと何されるかわかんねぇぞ」
「ご忠告どうも。気を付けとくよ」
その被害を最も受けているであろう人に言われると説得力があった。
名前自身も静雄に言われるまでもなく薄々と感じていたことでもあったので、特に反論することなく頷く。
スーパーで買い物を終えると静雄の好意に甘えて荷物を持ってもらい、名前の住まいとなっている寮へと共に歩き始めた。
空はすでに暗くなり、街灯だけが二人を照らして大きさの違う影が並ぶ。
そろそろ寮に到着する――というところで、夜に相応しくない品のない怒声が轟いた。
「見つけたぞ、平和島静雄……!!」
少なく見積もって二十人だろうか。
それぞれの得物を手にした男達が名前と静雄を囲んだ。