04



「ねぇ、折原。教えてほしいことがあるんだけど」


帰りのHRも終わり、後は帰るだけとなった放課後。
人が疎らになりつつある教室で名前は隣りの席の臨也に声をかけた。

臨也は人の悪い笑みで弄っていた携帯を閉じると名前に視線を向ける。


「何?俺のメアドなら喜んで教えてあげるよ」

「図書室ってどこ?」


ふざけたような言葉はスルーして自分の用件だけを端的に告げた名前。

色気も何もない質問に臨也はつまらないと言いたげにしかめた。
だが、それを言っても名前は乗ってこないだろうと悟ったのか質問には答える。

教えられた道順を頭に刻み込み、早速行こうとした名前を臨也の手が掴んで引き止めた。
酷く面倒そうな表情で振り返った名前ににこりと笑う。
あの胡散臭い、好かない笑みを。


「メアド、教えて?」


断る理由もなかったのだが……屋上での一件もあり、教えることに躊躇ったのは言うまでもない。











さすが都会の学校と言ったところか。
学校の外観は並高と大差ないが、図書室の充実率はこっちの方が高い。


「まぁ、使用度は低いみたいだけど」


放課後だというのに生徒の姿が全く見えない室内を見て、ポツリと呟く。

割と大きい声であったが咎める者もいなければ、聞いた者も誰もいない。
それはそれで好都合だった。
何しろ一人だけ違う制服というのはかなり目立つ。
実際、ここに来る途中でも人と擦れ違う度に名前を見ては囁かれていた。
その理由に制服だけではなく整った容姿に見惚れていたことも含まれていたのだが……まぁ、それは置いておく。

仕方ないとわかっていても気分は良いものではない。
名前はザッと見回し、一つに定めると奥の本棚へと進んだ。


「そういえばどうやって借りるんだろ……っと」


爪先立ちして片手を伸ばすが僅かなところで届かない。
早々に諦め、何か台はないかと辺りに視線を走らせた時、横から別の手が伸び名前が取ろうとしていた本を掴み取った。


「ほら、これだろ」

「どうも」


手渡された本を受け取り、その人物と向き直る。

体格が良く、オールバックに固めた男子生徒。
屋上で会った新羅のように全く見覚えのないことから初対面であると判断を下した。
単純に困っていた名前を見かねて助けてくれただけだろう。

その証拠に不躾な視線を遣るわけでもなく、会話をすることもなく男子は背を向けた。
最近どこかしら妙な人しか関わってないせいかこういう常識人っぽい人が新鮮に感じたのを自覚し、名前は内心でかなり微妙な心持ちになる。


「……何かまだあったか?」

「え?あぁ、いや、なんでもない」

「ならいいんだけどよ。お前、並高からの転入生だろ?何か困ったことがあるなら俺でよければ言ってくれ」

「じゃあ……」


本の借り方を教えてほしいと言った名前に、男子は一瞬だけ目を点にし、やがて苦笑しながらも教えてくれたのだった。