02



「もしかしてさぁ、そんな顔してて“こういうの”には疎かったりする?」

「そんな顔とか言われても意味わかんないんだけど」


背をフェンスにつけ、顔の両横に手を置かれて身動きを封じられる。
男が迫っているように見える、完全に第三者からすれば誤解を受けるだろう体勢であるのに、名前の無表情に変化はない。

それが面白くなくてからかうように言葉を紡いだ臨也だったが、返ってきたのはこれまたつまらない反応で。

本当にキスでもしてやろうかと臨也が考え始めた頃、名前は無表情のまま「ふーん、」と何か納得したように呟いた。
青い瞳に少しだけ感情が浮かぶ。


「それがアンタの本性?」

「何かその言い方嫌だなー。俺は君と仲良くなりたいだけだよ。……仲良く、ね」

「それは物好きだね。……まぁ、でも、さっきまでの胡散臭い笑みよりは今の方が全然マシかな」

「、」


臨也の目が不意を突かれたように大きく見開く。
そして次の瞬間、屋上に哄笑が響き渡った。

遠慮も何もなく笑われているという事実に、さすがの名前も良い顔はしない。


「あはは!!罵られるかと予想してたのに、まさか『マシ』だと言われるなんてね。これだから人間は面白い。人、ラブ!俺は人間が好きだ!愛してる!だからこそ人間の方も俺を愛するべきだよねぇ?」


……痛いというか、何というか……。
今更になって面倒な奴に関わってしまったと気付くが、多分、もう手遅れかもしれない。

苦々しく思っている間にも、臨也は嬉々として名前の顔を覗き込む。

整った秀麗な顔立ちが面倒そうに歪んでいて、意志の強い光が宿った瞳は鋭い。
青く靡いていた髪を掬うと微かにシャンプーの香りが漂った。


「仲良くしようよ。君となら退屈しなそうだ」

「私はアンタの玩具でもないんだけど」

「安心しなよ。君も退屈はさせないから、さ」


何を安心すればいいのかわからなかった名前は、取り敢えず本来の目的であったはずの昼食を摂りたいが果たして素直に解放してくれるかどうか。
ただでさえ時間があまりなかったのだから、もう数分程度しかないだろう。
さすがにお昼抜きはキツい。

いっそのこと実力行使してしまおうかと隠し持っていたロッドに手を添える……が、


「いーざーやぁあああああ!!!」


バンッ、と。怒声と共にもげる勢いで叩きつけられたように開いた扉。
そこには金髪で青筋を浮かべた、見るからに『怒り』を纏った鬼神の如き男子生徒が立っていた。