04
利用すると決めてもやっぱり罪悪感はあったから、付き合うにあたってそのことは話していた。
本来なら彼のためにも隠し通すべきだったかもしれない。でも、こんなに自分に対してまっすぐに想ってくれる人に嘘は吐きたくなかった。
嫌われてもいい。軽蔑されてもいいと覚悟の上で。
けれど、彼は笑顔で「それでもいいです」と言ってくれた。
少しだけ苦笑が混じってはいたけれど確かに笑って「今は好きでなくても、付き合ってる内に好きになってくれればいいです」と。
私には勿体ない人だと思う。
勿体なさすぎるその優しさに私は甘えるんだ。
「……あ、メールだ」
「あぁ、例の後輩くんから?その様子を見る限り、仲良くやってるみたいじゃない」
「んー、まあね。心配されるような感じではないかな」
一般的な恋人関係がよくわからないためそう言うしかない。
小説や漫画みたいな恋愛は当てにならないし、一緒にいて楽しいから多分それでいいんだろう。
名前はこの擬似的な恋愛に満足していた。
「送信、と」
デートのお誘いに可愛らしい絵文字を使い、了解のメールを送る。
同じ大学だけど学部は違うため、授業が被ることはない。偶に顔を合わせても話していられる時間は数分ぐらい。
そのため、携帯の電話やメール機能は重宝された。
今回みたいにデートの約束をするためもあれば、暇潰しのようなありふれたやり取りだったり。
返信が来ると嬉しくなって、遅いと少し物足りなく感じる。
良い傾向じゃないかと自分でも思っていた。
送信してから数秒も待たずにチカチカと光り、携帯が震える。
「早くない?あんたのメール、待ってたんじゃないの?」
「、……いや、ただの迷惑メールだった」
ニヤニヤとしている友人にごまかす苦笑を向け、もう一度メールの文面に視線を向けた。
【明日、暇?昼と夕飯、作りに来てよ】
暇なのかって訊いてるくせに来ると疑っていない。まるで全てお見通しというみたいに。
いつものことだ。いつもこうやって呼び出して、家政婦紛いなことをさせて、曖昧な距離をずっと続けさせる。
だからもうやめようと決めた。
【ごめん。用事あるから無理】
「名前?」
「ううん、何でもない。あ、今度こそ返信来たよ」
今だけ。今だけだからこんなに胸が痛むのは。
臨也からのメール一つで動揺している心を静めて、忘れてしまおうと頭の隅に追いやった。
これでいいんだと、言い聞かせて。