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漫画とか小説なんかで見る幼馴染な男女の恋。
遠回りな恋でも互いに想い合って、擦れ違っても最後には結ばれて幸せになれる。そんな恋愛に憧れてた。

……でも所詮憧れは憧れ。
現実を考えて、できるかどうかなんてわからない。


私とアイツが結ばれる結末なんて不可能に近かった。




***





「臨也ー?」


こうやって貰った合鍵で家に上がるのは何度目だろう。
名前は溜め息を吐きながら靴を脱いだ。

いくら幼馴染という近しい間柄とはいえ、他人は他人。それも異性の。
いい年した大人なんだからそこらへんはきちんとすべきだと思うが、名前は行くのをやめられずにいた。

――これも惚れた弱みというやつか。


「やあ、名前。いつも悪いね」

「そう思うなら少しは自炊とかしてくれる?わざわざ新宿まで来るのは面倒なんだけど」

「だったらここに住めばいいじゃないか。俺としてもその方が楽だったりするしね」


名前はその台詞を聞かなかったことにした。

臨也はあっさりと同居を勧めるが、二人の関係は恋人ではない。
ただの幼馴染……もしくは面倒のない家政婦か。名前は自分のことを臨也がそう思ってるのではないかと真面目に疑っていた。

この幼馴染は名前の気持ちなど容易く踏み躙る。
名前ズキリと痛んだ胸をさりげなく抑えた。


「今日は鍋がいいな」

「……一人なのに鍋って……」

「何言ってんの。名前も食べるに決まってるじゃん。で、泊まればいいよ。明日は何もないんでしょ?」

「……まあ、」


情報屋の手にかかればスケジュールなんてお見通しなので素直に肯定しておく。

明日は休日。大学はない。
遊ぶような友達は用事があるし、バイトはシフトを交換したから休み。

名前の感情を除けば断る理由はなかった。
……仮にあったとしても、臨也に言いくるめられるのが目に見えていたが。


「野菜、たくさん入れるからね」

「えー……」

「お肉ばっか食べてると太らなくても体調崩すんだから」


情報屋としての彼しか知らない人が見たら驚くであろう邪気のない表情。
こんな子供みたいな顔を晒すのは幼馴染の自分だけ。

信頼されていると喜べばいいのに、どうして素直に嬉しく思えないんだろう。



近いからこそ哀しくて、遠いからこそ愛しい距離。
曖昧すぎるこの距離が名前をずっと苦しめていた。