02
すでにほとんどの生徒が下校、または部活に行き人気のなくなった教室。
夕日の射す教室にいるのは名前と臨也の二人だけだった。
異性と二人っきり。
何ともシチュエーションとしては美味しいが、相手が臨也となればそうも言ってられない。
名前の背には冷たいものが垂れていた。
「えっと、折原くんが私に何か用……?」
「あれ、俺の名前知ってたんだ?」
「それはまぁ……有名だし」
濁した様子に気分を害したふうもなく「そっか」と頷く。
笑顔のまま、そして少しだけ鋭さを含ませて尋ねてきた。
「ところでシズちゃんが好きって本当?」
「は!?」
シズちゃんって誰。というか、好きな人なんて言ったことないんだけど……。
名前の困惑を知ってか知らずか、臨也は続けて言う。
「その様子じゃ違うみたいだね。
いやー、俺よりシズちゃんの方がいいって言ってたって聞いたからさ。気になってね」
ようやく名前は臨也の言う『シズちゃん』が誰なのか思い当った。
平和島静雄でシズちゃん。彼をそんな可愛らしい渾名で呼ぶなんて命知らずな。
そう思うも、怖いなら始めから敵対していないか、と思い直す。
同時にこの前、友人と『折原くんより平和島くんの方がタイプ』だって話したのを思い出した。
誰から聞いたかわからないが、臨也の言ってるのはそれだろう。
名前は慌てて首を横に振った。
平和島くんが好きだなんてとんでもない。勘違いもいいとこだ。
「別に強いて言うならってだけだから。付き合いたいとか露程も思わないし」
理想と現実がイコールとは限らない。
確かに優しい人がいいけれど、それとこれとは別であった。
「……じゃあ、俺と付き合わない?」
「は!?」
本日二度目となる素っ頓狂な声が飛び出す。
唖然として頭が真っ白になる。でも臨也の変わらない笑顔を見て、名前はすぐに冷静さを取り戻した。
息をゆっくりと吸って、吐く。
どくどくと心臓は鳴っているけれど、それを悟られないように気丈を装った。
「ごめんなさい」
「もしかして俺、フラれちゃった?理由、訊いてもいいかな」
「……さすがに初対面の人はちょっと……」
「あれ?俺と名字さんって前にも話したことあるよね?」
「え……」
「はい、これ落としたよ」
「あっすみません!ありがとうございます」
「どういたしまして」
名前の脳裏に浮かんだのは二年前の記憶。
廊下で落としたハンカチを彼に拾ってもらったのだ。
その後、静雄と鉢合わせたため戦争に勃発しそれまでだったが……。
そんな取るに足らない些細な出来事をよく覚えてたなと思う。
「や、でも、ほぼ初対面には変わらないし……」
「……それもそうだね」
やっと諦めてくれたか。
何の思惑があって言い出したかわからないけど、これで諦めてくれたのならいい。
また明日からは何の関わりもない一生徒に……
「でも、俺は諦めるつもりないから」
「…………………え、」
にっこりと笑顔と共に告げられた台詞に、名前は頬がひくりと引き攣るのを感じた。